「変革を生み出す起点はデータ」–AWSとANA、PayPayカードが示したデータ活用の最前線

「変革を生み出す起点はデータ」–AWSとANA、PayPayカードが示したデータ活用の最前線

アマゾン ウェブ サービス(AWS) ジャパンの年次カンファレンス「AWS Summit Tokyo 2023」が4月20~21日に千葉・幕張メッセで開催された。2019年以来4年ぶりのリアル開催となり、初日に続き2日目も多くの来場者でにぎわった。データ活用の動向がテーマとなった同日の基調講演をレポートする。

会期2日目の基調講演会場。開演45分前の様子だが、数千人が着席して開演を待ち望んでいた
会期2日目の基調講演会場。開演45分前の様子だが、数千人が着席して開演を待ち望んでいた

会期2日目の基調講演のタイトルは、「アイデアを形にし、これまでにない価値を届ける」。冒頭であいさつした執行役員 デジタルトランスフォーメーション統括本部長の広橋さやか氏は、初日の基調講演を振り返りつつ、まず世界中で注目を集めるジェネレーティブ(生成型)AIに触れ、AWSの取り組みとして米国時間4月13日に発表したばかりの「Amazon Bedrock」を紹介した。

同サービスは限定プレビューの段階だが、同社の新たなマネージドサービスとしてセキュリティなどを担保しつつ、ユーザーが目的に応じてAIモデルを容易にカスタマイズしていける特徴を打ち出している。

AWSジャパン 執行役員 デジタルトランスフォーメーション統括本部長の広橋さやか氏
AWSジャパン 執行役員 デジタルトランスフォーメーション統括本部長の広橋さやか氏

今や多くの企業や組織がAIと機械学習(ML)の活用に乗り出しており、データから洞察や知見を見いだして、ビジネスの変革や業務オペレーションの最適化などに生かそうとチャレンジしている。広橋氏は、データが重要な戦略的資産だと定義。しかし現実には、膨大なデータを蓄積することと、蓄積したデータを活用することの間に大きなギャップが存在しているとも指摘した。

データを活用していくには、多種多様かつ膨大な量のデータを目的に沿って活用できるようにするための土台がまず必要であり、そこから目的に沿った洞察を得ていくためのアナリティクスをはじめとする手法やツール、そしてそれら全体を支えるインフラが重要になるとする。

広橋氏は、旅行サービスのExpediaやドイツのプロサッカーのBundesligaのユーザー事例に触れつつ、AWSのサービスを利用してPB規模のデータを多様な視点で分析し、データから見いだすさまざまな知見や情報などを顧客に提供することで顧客体験を高め、顧客の満足度向上に取り組んでいるなどと説明した。

続いて登壇した米AWS リレーショナルデータベース エンジン担当バイスプレジデントのRahul Pathak氏は、人類の発明の歴史に触れ、発明が人間のひらめきだけで生まれるのではなく、長年のデータや知見の蓄積から生まれるものであり、データが発明の起点であり、データは人間の直感に勝るものだと説いた。

米AWS リレーショナルデータベース エンジン担当バイスプレジデントのRahul Pathak氏
米AWS リレーショナルデータベース エンジン担当バイスプレジデントのRahul Pathak氏

2022年12月に開催した「re:Invent 2022」で発表したサービスなどを紹介しつつ、同社がデータベースからアナリティクス、AI活用に至るまでユーザーの目的や要望に基づいたサービスを適切な形とコストで提供することにより、広橋氏の指摘するギャップを埋め、ユーザーの変革の実現を支えているとアピールした。ここで同社は、「包括性」「統合性」「ガバナンス」の3つを最も重視しているという。

データから新しい顧客価値の提供を目指す顧客事例として、全日本空輸(ANA) 執行役員 グループCIO デジタル変革室長の加藤恭子氏が同社の取り組みを語った。航空はコロナ禍による甚大な影響を受けた業界の1つだが、コロナ禍を脱しつつある現在、2025年を目標とする中期経営計画や新たに策定した経営ビジョンで、ANAグループとしての新たなデータ活用の仕組み作りに挑戦している。

ANA 執行役員 グループCIO デジタル変革室長の加藤恭子氏
ANA 執行役員 グループCIO デジタル変革室長の加藤恭子氏

加藤氏によると、データ活用に向けてボトルネックになったのが、グループの航空各社に特化した業務別のデータ基盤だった。これをグループ全体のさまざまなビジネスで活用していくための共通基盤としてデータレイクの「BlueLake」を構築。堅牢性の担保、柔軟性の確保、経済性の維持の3つを兼ね備えつつ、ANAグループが自らコントロールしていけるアーキテクチャーとした。「Amazon S3」や「Amazon Redshift」を中心とした構成で、個人情報やプライバシーに配慮し、匿名化・加工した顧客などのデータをサービスと業務改善の両面に活用していく方針だという。

ANAが構築するデータレイク「BlueLake」の構成概要
ANAが構築するデータレイク「BlueLake」の構成概要

また、データを活用する人材の育成や文化の醸成、体制づくりも重視する。グループ社員のデータ活用スキルの育成をリードする「データスチュワードシップ」や、人材がデータ活用スキルを発揮していくためのコミュニティー活動、データ活用のナレッジを蓄積していくデータカタログの整備にも取り組む。

加藤氏は、個人情報やプライバシーといったデータ活用にまつわるリスクへ適切に対応しつつ、ビジネスを変革するDXと、業務を最適なものにしていく取り組みの両面においてANAグループ一丸となった協働と顧客価値の共創を目指していくと語った。

データの活用がもたらす変革の実現を支えるのは、やはりITのインフラになる。再び登壇したPathak氏は、600種類以上に及ぶ「EC2」などのインスタンスや「AWS Outposts」などのコンピュートサービスや、セキュリティと性能を同時に向上させていくための「Graviton」プロセッサーや「Nitro System」「Scalable Reliable Datagram」(SRD)プロトコルなどを紹介した。

こうしたAWSのインフラサービスを利用して国内クレジットカード業界では前例のない規模の基幹システムのクラウド移行を実現したのが、PayPayカードになる(詳細記事)。

PayPayカードの基幹システムのクラウド化は国内カード業界初で最大規模になるという
PayPayカードの基幹システムのクラウド化は国内カード業界初で最大規模になるという

講演の最後にPathak氏は、変革を目指すユーザーに向けた多様なトレーニングの機会も多数提供していると述べ、日本のAWSユーザーを引き続き支援していくと締めくくった。

ZDNet より

事例カテゴリの最新記事