AI導入は組織の全部門が関わる取り組み–CIOが果たすべき主導的役割

  • 2023.11.13
  • AI
AI導入は組織の全部門が関わる取り組み–CIOが果たすべき主導的役割

人工知能(AI)の急速な進化を無視できる企業はないが、いかなる組織もデータ主導の取り組みが無秩序に立ち上がるのを放置することはできない。

「ChatGPT」や「Bing」などの生成AIサービスという形であれ、大規模なデータ分析への着手を可能にする機械学習主導の取り組みであれ、AIは組織のテクノロジー利用のあり方を大きく変えるものだ。私たちのビジネスと、それらの企業での働き方が、永遠に変わろうとしている。

企業にとっての現在の優先事項は、AIを適切に管理された方法で導入することだ。では、AIを最大限に活用できるようにする責任は誰が負うべきなのか。最高情報責任者(CIO)か、最高データ責任者(CDO)か、それとも他の誰かだろうか。

残念ながら、業界の専門家らによると、簡単な答えはないという。
特集:AIが企業にもたらす変化

「これは非常に複雑な問題だ」。米ZDNETにこう語ったLily Haake氏は、人材紹介会社Harvey Nashでテクノロジーおよびデジタルエグゼクティブサーチの責任者を務めている。同氏は、AIの利用増加と時を同じくして、CIOとITチームの役割や責任が問われていることを認識している。

CIOは従来、テクノロジーの取り組みを主導することが最も多い幹部だったが、この5年ほどの間で状況が変化し、ライン部門のマネージャーがITシステムとサービスの調達に関して、より大きな責任を負うようになった。

クラウドコンピューティングはこの変化の中心にある。今ではどの部門の従業員もクラウドを使って、ビジネスの課題に対するテクノロジーソリューションをオンデマンドで購入するようになった。

この分散化の時代におけるCIOとIT部門の重要な役割は、他の部門と関わって、テクノロジーの購入に関するアドバイスを提供するとともに、適切なガバナンスを確立して、社内外のサポートの強力なエコシステムを構築することだ。

AI、とりわけ生成AIの急速な台頭により、すでに解決困難な状況にあるテクノロジーの管理がさらに複雑さを増す。

Haake氏によると、Harvey Nashの調査で、大半の組織のAIがまだ初期段階にあることが明らかになったという。「AIを検討したこともない組織が多数存在する」とHaake氏。「約60%は何らかの形で試験導入したが、もちろんすべての組織ではない」

このテストの予備段階では、おそらくCIOがあらゆる種類のAIプロジェクトでリーダー役を務めることになるだろう。これにはいくつかパターンがあり、データの組織化が進んでいる大企業では、CDOがAIを日常的に監督するかもしれない。

しかし、このような場合でも、CDOはCIOの直属である可能性が高いため、AIに関する最終的な責任はCIOが負うことになる。そして、現時点での新興テクノロジーの企業導入に伴う不確実性を考えると、それは悪いことではない。

「CIOは、組織の多様なニーズを俯瞰することができる経営幹部だ。そしてもちろん、AIにはビジネスのあらゆる面に影響を与える力がある」とHaake氏。「そのため、CIOがAIを担当するケースが多くみられる。CIOは、この領域を管理して責任を負う者になりたいと考えている」

だが、多くの組織でCIOがAIの取り組みを主導しているとはいえ、このテクノロジーに関心を持つ人が他にいないわけではない。クラウドによって、ライン部門の従業員がテクノロジーに対する関心を強めたように、あらゆる部門の従業員がAIの使用方法について意見を持つようになった。

Haake氏は、こうしたAIへの共同的なアプローチを「協力」と呼ぶ。この戦略には、Gartnerの著名なバイスプレジデントアナリストであるAvivah Litan氏も共感している。「AIはまさにチームスポーツだ。そのため、1つの部門だけに導入することはできない」とLitan氏は米ZDNETに語った。「むしろ、以前からそうだったように、AIは事業部門の壁を越える。したがって、機会やリスクに関して言えば、コンプライアンス、プライバシー、マーケティング、顧客サービスなど、さまざまな事業分野にまたがるものだ」

Air France-KLMの会話テクノロジー担当ソリューションマネージャーのVeronique van Houwelingen氏も米ZDNETに対し、AIなどの新興テクノロジーへの全社的なアプローチを開発するには、協力が最善の手段だと語った。

「当社のような大企業では、あらゆる種類の取り組みが進行中だ。では、それを追跡するにはどうすればいいか」とHouwelingen氏。「このようなことが起きているときは、従業員やタスクフォースが重要になる。なぜなら、少なくとも社内で何が起きているかを把握できるからだ」

業界専門家らのメッセージは単純明快だ。長期的にAI開発を主導するのが誰であれ、AIをビジネスユースケースに適用する方法についての短期的な議論には、全部門が参加する必要があるという。

たとえば、人事部門はAIの職務や定着率に対する影響について考え、マーケティング部門はコンテンツとパーソナライゼーションに専念し、法務部門は倫理とガバナンスに取り組むだろう。

Thomson Reutersのデータおよびモデルガバナンス担当バイスプレジデントのCarter Cousineau氏は先頃、米ZDNETに対し、リスクを冒さずAIの成果を得るために実施している取り組みについて説明した。「責任あるAIについて考えるときは、すべてのユースケースを検討する」とCousineau氏は語る。「そのため、テスト段階でも、実際に真のモデルを作成して本番環境に移行しようとしている段階でも、ガバナンスと倫理の段階を設けている」

したがって、一部の組織はすでにさまざまな部門をAIの導入と適応に関する議論に関与させている。それでも、1人の経営幹部がこうした組織横断的な取り組みのとりまとめを期待されるようになり、ほとんどの組織でその役割を果たすことを求められるのが、CIOになるだろう、とGartnerのLitan氏は述べた。

「組織全体でチームの全員が協力すると、より多くの概念実証が本番環境へと進むことになる」とLitan氏。

「しかし、予算に関して言えば、CIOに予算を与えた場合、プロジェクトがより早く本番稼働する傾向にある。AIプロジェクトでは、予算が増えれば増えるほど、良い成果が得られるということが起きている。これは難しい理屈ではない」

同様の見解を示したのが、ライフスタイル管理会社Quintessentiallyでグローバル運営責任者を務めるCathrine Levandowski氏だ。CIOはあらゆる事業運営を監督してきたため、AIの台頭が始まる中で、CIOのテクノロジーとデータに対する理解が重要になる可能性がある。

「個人的には、その役割はCIOが担うべきだと思う。というのも、CIOは複合的な視点を持っていて、データだけでなく事業運営も把握していると思えるからだ」。同氏は米ZDNETにこう語った。「AIに関して下すいかなる意思決定も、ビジネスにとってプラスになるものでなければならないため、事業運営に関連するものであることが重要だと思う。AIは業務と効率の改善に利用したい」

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