「ChatGPT」など生成AIの活用方法を探る–ベイン・アンド・カンパニーの見方

  • 2023.04.28
  • AI
「ChatGPT」など生成AIの活用方法を探る–ベイン・アンド・カンパニーの見方

ジェネレーティブAI(生成AI)をビジネスに活用する動きが活発化しそうだ。経営コンサルティング企業のBain & Companyによると、マーケティングや顧客対応、ナレッジ管理、アシスタントでの導入事例が目下のところ多いという。

同社はOpenAIとの協業の一環として、The Coca-Cola Companyのマーケティングに対話型AI「ChatGPT」を活用し、小売店向け広告の自動生成と個別最適化を実現。同社 東京オフィスでパートナーを務める安達広明氏は、生成AIのビジネス活用について、その進展や注意すべき点を示した。

OpenAIがChatGPTを公開したのは2022年11月30日で、それからわずか2カ月で利用者が1億人を突破した。驚異的なスピードでユーザーを増やしている。自然な言葉で質問を入力するだけで応答結果が返ってくる手軽さが特徴だ。「話し言葉のようなクオリティーの高い返答をしてくれるので、ユーザーが爆発的に増えた」と安達氏は話す。非構造化データであってもChatGPTにデータを読み込ませるだけで扱えるというハードルの低さもある。多言語に対応することもグローバル企業にとっては魅力的だろう。

だからか、先進技術の採用に慎重と言われている日本企業がいち早く導入を決断している。メガバンクの動きはその象徴に思える。イタリアのように使用を制限したり、懸念を示したりする国がある中、OpenAIは日本市場に期待を寄せ、最高経営責任者(CEO)のSam Altman氏が4月に来日した折にも、その姿勢を鮮明に示した。

活用レベルが1から2、3へと進化する

ChatGPTに代表される生成AIには幾つかの種類がある。文字で入力した指示に自然な言葉で応じたり、画像やコードを生成するものもある。画像や音声を読み込ませると文字で結果が返ってくるものもある。さまざまな入力と出力の組み合わせがある中、企業で導入が進んでいるのは、文字や音声を使った生成AIになる。社内会議用の資料作成や会議の要約、草案の作成など、活用方法は幾らでも考えられる。ただ、活用の浸透は早いが競合他社と差別化を図れる使い方ではない。いわば生成AIの「活用レベル1」になる。

次の段階は、生産性の向上などを図る「活用レベル2」になる。職務規定や商品マニュアルといった社内文書を生成AIに読み込ませ、対話形式での検索などを可能にするといった使い方だ。こうした企業固有の情報の活用を促進しようとしているのが、メガバンクやパナソニックコネクトといった企業だ。例えば、従業員が「有休を取りたい」とAIに話しかけると申請書類が作成されたり、営業担当者が「あの顧客に新商品を売り込みたい」と問いかけると商品の特徴や売り込み文句が提案されたりする。

もう一歩進んだ「活用レベル3」の事例も現れ始めている。安達氏によると、その一つは同社とOpenAIの協業で実現した、The Coca-Cola Companyのマーケティングオートメーション(MA)だという。

3社は約1年前からChatGPTをビジネスで最大限に活用するための取り組みを始め、技術的な限界や可能性を探ってきた。その成果の一つが小売店向け広告コンテンツの自動生成になる。消費者のニーズに応じてテキストや画像などを組み合わせてデザインしたコンテンツを創り上げていくもので、ChatGPTが実質ゼロに近い時間で生成するという。従来は専門業者に依頼して時間や費用もかかっていた。「ビジネス上のインパクトは非常に大きい」(安達氏)

さらなる進化した使い方もある。企業が独自のアセットを組み合わせ、競合との差別化を図るための活用する。安達氏によれば、自動車メーカーが車両に音声アシスタント機能を搭載することで、ドライバーと車両が会話できるようにしたり、ネットスーパーが消費者におすすめのレシピとその食材を提案し、商品が注文されると「Uber Eats」のように自宅に配達されたりなど、さまざまなアイデアが生まれるだろう。

情報の流出や返答の精度など注意すべき点も

注意すべき点もある。ある企業は機密情報をChatGPTに流出させたとして問題となった。社内のルール作りはもちろん、ChatGPTはユーザーが入力した内容をAIの学習に利用する可能性があるのを理解しておくことが重要だ。回答の精度についても注意が必要になる。ChatGPTの精度についてはさまざまな数字が公表されているが、一般的な受け答えは人と遜色ないという。第三者機関によるChatGPTを使った米国司法試験の模擬回答では、実際の受験者の上位10%に相当したと報告されている。

一方で、安達氏は「(ChatGPTの利用には)クオリティーコントロールの責任がある」と話す。ビジネスで使用するには人の確認作業を徹底する必要があるということだ。まずは社内で徹底的に使いこなし、アウトプットの精度を確かめてから、自社のサービスなどに組み込んでいく。例えば、社内FAQを使ってChatGPTのトレーニングを繰り返し、返答精度を高めたり、運用のノウハウや知見を蓄積した上で、ユーザーにも提供するようなケースだ。

安達氏によれば、日本企業も「活用レベル3」に進み始めるタイミングにあるという。特に先進技術の活用に積極的な経営者や危機意識の高い企業は、トップダウンで導入を決めるだろう。デジタル推進室のような組織は海外の情報を収集したり、外部のアドバイザーの意見を聞いたりしながら、早い段階から議論を始めている。

営業やマーケティングが中心となって先進技術を活用する重要性を訴えても、全社に広げるには時間や労力がかかる。「リスクが大きい」と様子見を決め込んだり、「もっと素晴らしいものが出てくるはず」と慎重な姿勢の企業もあるだろう。議論の進み方や情報の感度、熱量の違いなどによってもスピードは変わってくる。

生成AIを活用する上で検討すべきこと

Bain & Companyは、生成AIの活用に向けて日本企業が検討すべきことを示す。1つ目は信頼性をどのように高めるかだ。情報漏えいや誤回答のリスクに備え、管理ポリシーや使用ルールの策定が重要になる。2つ目は活用の目的や目標を明確にすることだ。3つ目は生成AIの価値を最大限に引き出し、競争優位を構築するための戦略である。3年後、5年後のロードマップを描くことが大切だ。

4つ目はチェンジマネジメントで、経営から現場までAIに対する意識や考え方を浸透させること。5つ目はAI活用に向けた議論や取り組みが考えられる組織運営への変革である。経営会議の資料や議論の進め方に大きな影響を及ぼすことになる。6つ目はデータセットの選定とその組み合わせ、7つ目は安全に利用するための技術基盤の構築、8つ目は協業の検討になる。

Bain & Companyは、生成AIによってビジネスコンサルティングの幅を広げている。インドなどにいる1000人超のデータエンジニアが企業内にあるシステムと生成AIを連携させたり、業務の効率化や生産性の改善など新たな価値を創り出そうとしている。

生成AIが社会に与える影響は計り知れない。その活用力が市場を拡大させるとともに、競争力を高めることになるのだろう。

ZDNetより

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