1都3県で展開するスーパーマーケットの「オーケー」は、一般の販売品を安く販売しているだけでなく、店内のベーカリーで焼き上げるパンやピザも人気が高い。そんなオーケーでは今、AIのユニークな活用法に取り組んでいる。それは「ピザの焼き色を判定するAI」。なぜ経営ではなく、現場のためのAIシステムを開発しているのだろうか。また、AIに「いい焼き色」を理解させるために、2000枚のピザの画像を地道に教えた。当初1000枚の画像を学習させたところ、ある理由で精度が低かったというのだ。その理由とは……。
(ノンフィクションライター 酒井真弓)【この記事の画像を見る】
スーパーマーケット「オーケー」が ピザ焼き色判定AIシステムを導入
1都3県に140店舗以上を展開するディスカウント・スーパーマーケット「オーケー」。商品の状態を正直に伝える「オネスト(正直)カード」や、ナショナルブランド商品は地域一の安値を目指す「競合店対抗値下げ」など、高品質・低価格にこだわった施策を展開し、JCSI顧客満足度調査で12年連続1位を獲得している。
そのオーケーが、AIの力でさらに品質を追求しようとしている。ピザ焼き色判定AIシステム。どの店舗でも安定して美味しいピザを提供するための秘密兵器だ。
ピザといえば、オーケーを代表する人気商品で、鍛錬を積んだ総菜・ベーカリー部門の職人たちが一枚一枚丁寧に焼き上げている。そこにAIをどう活用しようというのか。
AIシステムのコンセプトは「脱・職人」 理想は、新人もベテランも同じように焼けること
神奈川県横浜市にある、オーケーみなとみらい店。本社に併設されたこの店舗では、IT本部を中心に、新たなテクノロジーを活用した研究開発が行われている。その一つが、焼きたてのピザの焼き色を「OK」か「焼き過ぎ」か「生焼け」か判定する、ピザ焼き色判定AIシステムだ。
「人間とAI、2つの眼を駆使して美味しいピザを焼いています」 そう語るのは、ベーカリー部門チーフの望月剛さん。歴9年のベテランだ。ピザ焼き色判定AIシステムには構想段階から関わり、2022年9月の正式稼働からは、AIの眼とともにピザを焼いている。
「以前は、本物のピザとサンプルの写真を見比べて、『まだ白いな』『ちょっと焼き過ぎかな』と判断していました。それでも一定の品質は担保できていましたが、暗いと焼き過ぎに気付かなかったり、影が焦げに見えてしまったりといったことがありました」
ピザ焼き色判定AIシステムに賛同したのは、「新人でもベテランでも、誰が焼いても安定して美味しいピザを提供できるようにしたかったから」。2024年には関西進出を控えるなど、出店拡大路線を突き進むオーケーにとって、その仕組みづくりは急務だった。
とはいえ、望月さんの前腕にある複数の火傷跡は、400℃のピザ窯と向き合い、技を磨いてきたことを切に物語っている。この流れを残念に思ったりしないのだろうか。
「全く思いません。お客さまに良いものを提供できるのが一番ですから。それに、自分が一番うまく焼けると自負しているとしたら、それもAIがしっかり判定してくれるんです」
「本当にうまい人はクオリティを維持できますから、何枚焼いてもAIは同じ判定をしてくれます。もう少し練習が必要な人にとっては、AIの評価が励みになって改善が進みます」
ちなみに、今焼いているのは「チェリートマトのマルゲリータピザ」だが、他のピザでも判定できるのだろうか。
「できます。AIによる判定に具材はあまり関係ないようです。大事なのは縁の部分、つまり耳です。ピザの耳って、基本的に何も乗ってないじゃないですか。その耳が焼け過ぎたり、生焼けだったりするのが良くないんです」
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