凸版印刷:AI 運用パイプライン構築で作業時間を月 20 時間削減し、モデル構築と予測のコストを 10 分の 1 に削減
データ活用の一環として、AI ソリューションを活用したプロモーション ターゲティング サービス KAIDEL を提供しています。KAIDEL は、取引先が保有する過去データから分析した特徴を基に、高見込み顧客を発見し、マーケティング施策の ROI を向上することを目的に、2017 年 6 月よりサービスの提供が開始されています。
デジタルマーケティングセンター 課長の森川 東勲氏は、「2000 年ごろから、得意先のデータを預かり、課題解決のための分析やレポート作成を行っていました。その発展形で、カタログや DM(ダイレクト メール)の送付業務も行っていたので、より効果の高いお客様を見つけることを目的に KAIDEL が誕生しました」と話します。
デジタルマーケティングセンターの梶原 康至氏は、「当初、KAIDEL は、他の AI プラットフォームを利用していましたが、機械学習用のデータをオンプレミスの別環境で作成することが必要なため、データを移動させるために工数がかかり、データ量が多いと移行処理に時間がかかっていました。またオンプレミスのストレージは容量に限界があり、維持管理に工数とコストがかかることも課題でした」と話します。
森川氏は、「いくつかのクラウド サービスを比較検討しましたが、Google Cloud の Vertex AI は、ほかのクラウド サービスよりもインターフェースが優れていて、使い勝手がよかったことや、ウェブ広告や CRM などの仕組みの構築も増えていたことから、既存のビジネス領域との親和性が高いことも採用の理由でした。チームで 1 つの仕組みを利用できる一体感は、非常に重要なポイントだと思っています」と話しています。
Vertex AI 選定の決め手は精度とコスト
2022 年より本稼働している新しい KAIDEL は、まずは Vertex AI の AutoML を活用し、顧客一人ひとりに対して、行動を起こす確率を予測して、スコアを付与する仕組みを構築しました。その後、Google Cloud の各プロダクトを利用した AI 運用パイプラインを構築することで、運用の半自動化を実現。AI の継続的運用の省力化を可能にしています。
現在の KAIDEL 構成は、まず外部システムやローカル環境から、顧客データや購入履歴データなど、必要なデータを抽出し、Cloud Storage に格納します。そのデータを BigQuery に取り込み、Vertex AI Pipelines で AutoML を呼び出して、モデル作成、スコアリングを行い、その結果を Cloud Storage に戻す仕組みになっています。
KAIDEL システム構成図
Vertex AI の選定の決め手は、精度とコストでした。梶原氏は、「複数のアルゴリズムを用いてモデルを作成するため、処理時間が大きくなってしまいますが、それを差し引いても、業務全体としての時間が大幅に削減できたため、使いやすいというのが Vertex AI の評価です。精度に関しては非常に高く、これまでの案件とモデル精度を比較した結果、Vertex AI の方が精度が高い結果となりました。日々の実案件でも問題なく利用できており、得意先からも、高く評価されています」と話します。
得意先からの評価について森川氏は、次のように話します。「ある得意先では、当初は手作業で簡単なターゲティングをして、DM を送付したり、キャンペーンを実施したりしていました。KAIDEL を利用することで、従来の施策に比べて約 3 倍の購入率を実現しています。すでに金融業界や流通業界など、多くの企業で効果を上げています。KAIDEL を説明するときに、アルゴリズムの確かさなどを説明することが必要なのですが、『Google Cloud の AI エンジンを使っています』と話せばすぐに納得してもらえます。」
ビジネス面での効果をデジタルマーケティングセンター センター長の梅川 健児氏は、「これまで AI 活用にかかわってきたのは、エンジニアとデータ アナリストまででした。Google Cloud は、GUI(Graphical User Interface)が優れているので、マーケティングのメンバーも直感的にツールを活用することができます。これまでは特定のチームが便利になる、特定の部門の売上が上がるという効果でしたが、これからは、あらゆるチーム、部門でシナジー効果を発揮することが期待できます。また、これまで個別に導入していたテクノロジーを、Google Cloud による共通基盤に集約することで、個別最適を全体最適にすることができます。凸版印刷のすべてのサービスに対応するには、数十社のベンチャーのテクノロジーが必要ですが、Google Cloud の豊富なサービスにより 1 社で対応できるのもメリットです。Google Cloud の最新テクノロジーを活用できることが、社員のモチベーションにもつながっています」と話しています。