金融庁:職員による有志チームが会議日程調整アプリを内製開発し、各回 2 時間程度の工数削減に成功

金融庁:職員による有志チームが会議日程調整アプリを内製開発し、各回 2 時間程度の工数削減に成功
「企業・経済の持続的成長と安定的な資産形成等による国民の厚生の増大」を目標にさまざまな金融行政を推し進めてきた金融庁。そんな同庁の若手職員有志が集い、Google Cloud を用いて実現した「日程調整アプリケーション」が、内閣官房「業務見直し特別賞」を授賞しました。一般職員が現場のニーズを踏まえて開発したというこのアプリがどのようなものなのか、開発メンバーの皆さんに話を伺いました。

利用しているサービス:

App EngineCloud SQLGoogle Cloud ArmorCloud Identity 、Cloud LoggingCloud Storage など

Google Cloud は内閣府「ISMAP」認定クラウド プラットフォーム

金融庁では適切な制度設計などを目的に、日々、外部の学識者や実務家らを委員とする多くの審議会が行われています。これまでは審議会を開催するたびに参加予定者に日程調整用のシートを送付し、その回答ファイルを取りまとめるかたちで開催日を決めていたのですが、その日程調整作業が担当者の大きな負担になっていました。

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「審議会に参加する委員の人数は各回およそ 10〜15 名。それぞれの委員ごとにセルの統合などシートへの記載の仕方が微妙に異なっているなどの理由から機械的な集計作業が難しく、また、返事のない方への催促なども含めると日程調整のために多くの時間が取られてしまっていました。また、異なる審議会を兼務する委員が複数のファイルに入力しなければならないことも不評でした。こうした手間を解消したいと考えたのが『日程調整アプリケーション』を作ろうと考えたきっかけです。」(金融庁 企画市場局 市場課 佐藤 主隆 氏)

個人の連絡先やスケジュールを取り扱うことなどから、金融庁のセキュリティ要件を満たしていない一般の日程調整ツールを使うことはできません。そこで若手職員有志が集い、自ら専用のアプリケーションを開発することになったと、この取り組みの発起人の一人である、金融庁 企画市場局 総務課 係長 長谷川 正樹氏は当時を振り返ります。

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「金融庁には『政策オープンラボ』と呼ばれる、職員による自主的な政策提案の枠組みがあり、希望者は業務時間の一部を使って、金融行政の高度化に資する調査・研究・開発を行うことが認められています。今回の開発プロジェクトは、この政策オープンラボの取り組みの一環として、金融庁における日程調整業務の効率化を実現し、より本質的な業務に職員の時間をさけるようにすることを目指しています。」

プロジェクトが立ち上がったのは 2019 年末。これまでも同じ枠組みで会議室予約の電子化などに取り組んでいたほか、長谷川氏を含め、チームには過去にプログラミング経験のあるメンバーもいたため、まったくの経験ゼロではなかったものの、まずは Web アプリケーションのフレームワークを学ぶところから始め、その後、プロトタイプの制作に着手。実際に動作するアプリが完成したのは、開発チームの結成からおよそ 1 年半が経過した、2021 年 4 月ごろだったと言います。

しかし、できあがったアプリをそのまま既存の金融庁の環境に導入するという点には課題がありました。外部からのアクセス(審議会などの委員からの日程入力)をどのように受けるかということについて議論が必要でした。そこで、この取り組みではクラウド サービスの使用を決定。いくつかの選択肢の中から Google Cloud を選定した理由について佐藤氏は次のように説明します。

「政府が利用するクラウド サービスは原則、内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が運用する、政府情報システムのためのセキュリティ評価制度『ISMAP』に認定、登録されたものである必要があります。登録サービスの中から価格やアフターサポートを考慮して候補を絞り、調達手続を経て、Google Cloud を使用することとしました。メンバーの多くがすでに Gmail などの Google サービスを利用しており、その操作に習熟していたこと、またクラウド運用に関する知識がない中、正規販売代理店である株式会社電算システム様の技術的なサポートなどの柔軟かつ手篤い対応も魅力的に感じました。」

App Engine などフルマネージドなサービスを活用することで職員の負担を軽減

長谷川氏らが Google Cloud 上に「日程調整アプリケーション」を展開するにあたり、まず考慮したのが、各メンバーの通常業務に差し障らぬよう、保守運用の手間を可能な限り軽減することでした。

「そこで『日程調整アプリケーション』では、App Engine や、Cloud SQL など、フルマネージドな PaaS 型のプロダクトを積極的に活用し、スケーリングや日々のメンテナンスなどの当庁側の負担を最小化しています。」(長谷川氏)

「その上で最も気を使い、苦労したのがセキュリティです。『日程調整アプリケーション』は庁外のネットワーク上に置かれ、しかも外部の方々も利用するツールであるため、WAF の設置は必須でした。そこで今回は Google Cloud Armor を導入。最終的には庁内 IT 担当部署の職員や外部の有識者の力を借りつつ、実際に攻撃を仕掛けてもらうかたちで脆弱性の点検を行い、必要なセキュリティの確保に努めています。また、Cloud Identity を用いてアカウントの権限を適切に管理しています。さらに、アプリ上で委員の氏名や審議会の名称などを入力しない設計にすることで、万が一セキュリティ侵害があっても、情報漏洩が発生しないようにしました。セキュリティ確保においては、クラウド サービスの導入や運用の考え方などにおいての開発をサポートいただいた、総合政策局 リスク分析総括課 サイバーセキュリティ対策企画調整室 金融証券検査官の釜山氏をはじめとした庁内有識者の方々に多々助言をいただきました。」(佐藤氏)

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「インシデントが発生した際のマニュアルやフローについてもあらかじめ整備しておき、何か問題が発生した際に速やかに然るべき者に報告が入るよう、体制を整備しています。」(金融庁 総合政策局 リスク分析総括課 神谷 安有子 氏)

こうして万全の体制を作りあげ、2021 年 12 月より「日程調整アプリケーション」の運用がスタート。その成果は上々で、課題の多くが解消したと神谷氏は言います。

「これまで 1~2 時間はかかっていた日程調整シートのとりまとめ作業時間がほぼゼロになり、より生産性の高い業務に専念できるようになったという声を多くの職員からもらっています。また、スマートフォンからタップ入力できるシンプルな UI にしたことで、出席者からの回答スピードが今までよりも早くなり、スムーズな日程調整ができるようになるなど、統合にかかる時間以外にも多くのメリットが生まれていると感じています。『日程調整アプリケーション』の成果は庁内だけでなく庁外でも高く評価され、内閣官房が政府全体で業務効率化に取り組んだ部署を表彰する「令和 3 年度ワークライフバランス職場表彰」において「業務見直し特別賞」をいただきました。多くの府省・部局に共通する日常業務である審議会などの委員の日程調整に着目して改善に取り組んだ点が素晴らしいと評価いただいています。」

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日程調整アプリケーション

いまや金融庁の業務において、なくてはならないツールとなった「日程調整アプリケーション」。もちろん、今後も機能向上させ、利用者を拡大させていく予定です。

「霞が関には同様の悩みを持った省庁が多くあり、私たちと同じ苦労をしている職員が多くいるでしょうから、今後、『日程調整アプリケーション』を他省庁に展開していくということはあり得るのではないかと考えています。また、今回の取り組みを通じて、クラウド上へのアプリケーション実装方法を学ぶことができたため、アプリのさらなる改善や、新たな取り組みなどを行っていければと考えています。」(佐藤氏)

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