日本企業の基幹システムは進化しているのか–日本オラクル社長が語った問題提起とは

日本企業の基幹システムは進化しているのか–日本オラクル社長が語った問題提起とは

日本企業の基幹システムは果たして進化しているのか。デジタルトランスフォーメーション(DX)が進展しつつある中で、この問題がますますクローズアップされるようになってきた。そんな折、日本オラクル社長の三澤智光氏からこの点について興味深い問題提起を聞くことができたので、今回はこの話を取り上げたい。

三澤氏が語った基幹システムへの2つの問題提起とは

写真1:記者会見に臨む日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏
写真1:記者会見に臨む日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏

日本オラクルは先頃、今後の事業戦略について記者説明会を開いた。その内容については速報記事をご覧いただくとして、説明に立った三澤氏が事業戦略の話に入る前に「私がこれまで考えてきたこと」として語った2つの問題提起が興味深かったので紹介しよう(写真1)。

まず1つは、「レガシーモダナイゼーションは必須」であることだ。同氏はこの点について次のように語った。

「私はこれまで、基幹システムにおいてはレガシーモダナイゼーションやミッションクリティカルシステムの近代化が必須であることを言い続けてきた。『レガシーシステムは塩漬けにしておけばいい』との意見もあるが、それは明らかに間違っていると思う。なぜならば、新しいビジネスモデルに追随していかないと、日本企業の競争力が劣化してしまうからだ」

「これからWeb3のような新しい時代が来るとも言われているが、ヒト、モノ、カネに関する正確なデータを利活用できる環境を整えておくことは、日本企業が競争力を発揮するために必須だと、私は思っている」

「それから、残念なことに、日本企業のレガシーシステムやミッションクリティカルシステムのほとんどは、定期的にパッチを当てたりアップグレードしたりする習慣がない。指数関数的にセキュリティのリスクが高まっている中で、やはりレガシーシステムにおいてもクラウド技術を使ってしっかりとモダナイズを行い、定期的にパッチを当てたりアップグレードしたりできる環境を整えていくのも大変重要なポイントだと考えている」

もう1つの問題提起は、「5~10年先の技術進化を見据える」ことだ。この点については、次のように語った。

「これまでの5~10年を振り返ると、コンシューマーIT分野はとんでもなく進化したと思う。一方、エンタープライズIT分野も同じように進化したかというと、私はそうでもなかったのではないかと見ている。ただ、これからの5~10年先を見据えると、いよいよエンタープライズIT分野の進化がダイナミックに動き出すのではないかと。そのドライバーとなるのはAIだ。AIがエンタープライズITをどれくらい進化させていくか。私が見通しているだけでもとんでもないことがこれから起こると思っている」

「そうなると、5~7年のサイクルで更新してきた日本企業の基幹システムは、これまではそれほど技術的負債はなかったかもしれないが、これからは大きな技術的負債が深刻な格差を生むことになるだろう。AIをはじめとした最新の技術がエンタープライズITにもこれからどんどん組み込まれていく。そうした進化を享受し続けていただけるようなシステムを、私たちとしては提供し続けていきたい」

三澤氏は図1を示しながら、このように熱い思いを語った。そして、こうした考えに基づいて、今後の事業戦略を練ったという。

図1:三澤氏が語った2つの問題提起(出典:日本オラクルの会見資料)
図1:三澤氏が語った2つの問題提起(出典:日本オラクルの会見資料)

「基幹システムの進化は間違いなく起こり始めている」

上記で紹介した三澤氏の問題提起は、1つ目の「レガシーモダナイゼーション」もさることながら、2つ目の「技術の進化と負債」の話が、筆者にとっては興味深かった。とはいえ、改めてこれらの内容を見ると、基幹システムのクラウド移行はまだまだ進んでいないとの印象を受ける。

そこで、会見の質疑応答で、「日本企業の基幹システムのクラウド化率は今、どれくらいだと見ているか」と聞いてみた。エンタープライズIT向け事業を主体とする日本オラクルの事業の動きから、基幹システムのクラウド化率はある程度推定できると考えたからだ。すると、三澤氏は次のように答えた。

「私どもの事業で言えば、年間の保守料金が減少すれば、クラウド化率が上がったと見ることができると思い、その推移に注目していたところ、これまでは保守料金が減らないどころか少々増加している。ただ、ここにきて当社のお客さまで金融分野の大規模ミッションクリティカルシステムがクラウド技術で稼働し始めるなど、各分野で大規模システムのクラウド移行の動きが次々と起こり始めている」

「こうした動きは、まさしくレガシーシステムのモダナイゼーションが必須という考え方が浸透してきた証左だと受け止めている。基幹システムのこれからの進化は、クラウド技術を活用していくことにあると、私は確信している。その動きはここにきて間違いなく起こり始めている」

実は、日本企業の基幹システムのクラウド化率については、同社が2023年4月に開いたプライベートイベントでの記者会見でも三澤氏に同じように質問した。その際、同氏は「現時点では5%から10%といったところだ。キャズムを超えるのはまだまだこれからだ」と答えた上で、今回と同様に「これまでにない大規模な基幹システムのクラウド移行の事例も出てきたので、これから市場が本格的に動き出すのではないか」との見方を示した。ちなみに、この会見でのやりとりについては、4月20日掲載の本連載記事「なぜ、基幹システムのクラウド移行は進まないのか–日本オラクル社長に聞いてみた」をご覧いただきたい。

今回の会見では、「4月の会見で『現時点で5%から10%』とお聞きしたが、その後、見立ては変わったか」とも食い下がってみたが、具体的な割合における言及はなかった。前回の会見から3カ月しか経っていないので言及がないのは仕方のないところだ。が、三澤氏に期待したいのは、エンタープライズ向けソフトウェアベンダー最大手のトップとして、今回のように熱く語った問題提起と共に、同社の動きを通して推定できるであろう日本企業の基幹システムのクラウド化の進捗(しんちょく)をぜひとも解説し続けていただきたい。そして、この分野が今、どんな状況にあるのかをユーザーに分かりやすく説いていってもらいたい。それが、この市場の活性化につながるはずだ。そのためなら、筆者は三澤氏に会見で引き続き、同じことを聞いていきたい。

ZDNet より

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