住友林業 / IHI: 熱帯泥炭地植林事業のための AI 開発基盤をクラウド上に構築

  • 2023.07.03
  • AI
住友林業 / IHI: 熱帯泥炭地植林事業のための AI 開発基盤をクラウド上に構築
豊かな生物多様性を誇るだけでなく、「地球の肺」として CO2(二酸化炭素)を吸収し酸素を供給し、「地球の心臓」として地球全体に水を送り込む役割も果たしてきた熱帯泥炭地の保護・修復は世界にとって喫緊の課題です。そんな中、注目を集めているのが、住友林業株式会社(以下、住友林業)、株式会社IHI(以下、IHI)、株式会社Recursive(以下、Recursive) の 3 社が共同で取り組んでいるインドネシア熱帯泥炭地におけるコンサル事業。最新テクノロジーを駆使しながら、真の意味で持続可能な森づくりを目指すというこの取り組みで Google Cloud がどのように役立っているのか、事業を牽引するリーダーたちに話を伺いました。

利用しているサービス:
Compute EngineCloud Storage など

人工衛星や AI など、最新テクノロジーの力で熱帯泥炭地の地下水位をコントロール

今や世界の最重要課題となっているサステナビリティ。Google Cloud は 10 年間にわたって、カーボン ニュートラルという観点からこの課題に向き合い、世界中の組織がカーボンフリーで持続可能なシステムに移行できるよう取り組んできました。そうした中、すでにいくつかの成果を出しつつあるのが、住友林業と IHI が立ち上げ、後に Recursive が加わることで大きく加速した「NeXT FORESTプロジェクト」です。このプロジェクトでは住友林業と IHI が培ってきた技術で、かけがえのない森林や熱帯泥炭地を守り、発展させることを目指します。手つかずの森林の保護だけでなく、既に人の手が入った森も修復し、管理・モニタリングすることで、環境・社会・経済を調和させることが本プロジェクトのゴールです。

住友林業では、地域住民への生活基盤提供も含めた経済的にサステナブルな植林事業と保護価値が高い森林の保全の両立が、ESG の観点において大きな意義を持つと考え、2010 年より、インドネシアでの植林事業を開始。しかし、その実現には想像をはるかに越えた熱帯泥炭地ならではの苦労があったと、住友林業 資源環境事業本部 副本部長 兼 脱炭素事業部長 加藤 剛氏は説明します。

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「かつて水分が 9 割を占める泥炭土壌では植林のために排水する農林業を行っていました。しかし、当時の手法では地下水位をコントロールしきれず、過剰な乾燥の結果、度重なる消火困難な泥炭火災が起きました。実際、2015 年にはエルニーニョ現象による大規模な泥炭火災が発生しており、インドネシア全土で約 260 万 ha もの森林が消失。このとき発生した CO2 は日本の化石燃料由来の年間 CO2 排出量を超えたと言われています。泥炭火災を防ぐには地下水位が 40 cm よりも低くならないように管理するのが有効ですが、地下水位が高くなりすぎると植林木の生育が妨げられるため、年間を通して水位を適切に調整しなければなりません。」

そこで住友林業は自社で管理する熱帯泥炭地を緻密にデータ化。膝まで土中に沈みこむような柔らかい土壌の熱帯泥炭地を約 1,800 km(青森・福岡間の距離に相当)にわたって測量し、約 5 年かけてこれを成し遂げました。同時に泥炭の分布や深さを把握するために 1,500 か所のボーリング調査(穴を掘って地盤の状況や地層境界の深度などを調べる際に用いられる地盤調査方法)、800 か所の地下水位モニタリングも実施し、それを基にした世界的にも類をみない泥炭地管理モデルを確立。2021 年にグラスゴーで開催された国連気候変動枠組み条約第 26 回締約国会議(COP26)では、熱帯泥炭地の排水型とは異なる貯水型管理技術、及び熱帯泥炭地が持つ自然資本価値とその評価・モニタリング技術を紹介しています。

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泥炭土壌のボーリング調査の様子(左が加藤氏)

当時を思い返しながら「(調査を)もう一度やれと言われたら、絶対に拒否しますね」と笑う加藤氏。しかし同様の課題を抱える熱帯泥炭地は東南アジアだけではなく、アフリカ、アマゾンなど世界中に広がっています。そこで加藤氏は、人工衛星やドローンを使った観測や AI など、最先端のテクノロジーを駆使することで、この取り組みで得た知見とノウハウをさらに改善しつつ他の土地にも適用できないかと考え、単独でロケットを打ち上げる技術を持つなど、宇宙事業で大きな実績を誇る IHI とNeXT FORESTプロジェクトを立ち上げ、SDGs の実現に向けて活動する多国籍 AI スタートアップ Recursive とのパートナーシップを締結。IHI 航空・宇宙・防衛事業領域 副領域長 並木 文春氏は当時を次のように振り返ります。

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「IHI が培ってきた人工衛星を用いた地上情報のセンシング技術を用いることで、住友林業が確立した泥炭地管理モデルをインドネシア以外の世界中の熱帯泥炭地で活用できるのではないかと考えました。その実現に向け、まず手がけたのが、長らく培われてきた住友林業のノウハウから属人性を排除し、誰でも利用できるかたちにした汎用的な水理モデルの開発です。このとき、加藤氏が強くこだわっていたのが時間をかけずに実現するということでした。10 年かけて精緻な物理モデルを開発しても、その間に多くの自然が失われてしまったのでは意味がありませんから。そこで、AI 技術を用いて開発速度を高めるべく、SDGs に対する強い情熱を持つ優秀な人材を多数擁する、Recursive に声をかけ、我々のプロジェクトに加わっていただきました。」

プロジェクトのゴールは持続可能な森づくりを実現しつつ、これをビジネスとしても成り立たせること。現地には熱帯泥炭地の上で生業を営む住民も多くいるため、環境保護だけを目的にしてもうまくいきません。住友林業の西カリマンタンの取り組みでは 管理地全体の 75% で生態系保全に取り組みつつ、残りの管理地で植林事業を効率的に展開することで真の意味での持続可能な森づくりを実現しました。加藤氏は本プロジェクトを通じて「森を壊して開発しなくてもビジネスとして成り立つことを広めていきたい」と強調します。

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地下水位予測システム イメージ

Google Cloud ブログより

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