保育園をDXで。岩手・北上市の“常識”を変えるプロジェクト

  • 2023.01.26
  • DX
保育園をDXで。岩手・北上市の“常識”を変えるプロジェクト

保育園をDXで。岩手・北上市の“常識”を変えるプロジェクト

企業だけでなく、自治体の行政サービスでもDX推進が求められるようになり、業務のデジタル化やオンライン手続きの導入が進んでいる。一方、デジタルツールを導入するだけでなく、職員や住民が変化を実感し、その変化を“新しい常識”として根付かせていくことが長期的には必要だ。

「保育園DX」をきっかけに、その課題に取り組んでいるのが、岩手県の内陸中部に位置する北上市。北上市では2022年、公立保育園6カ所と療育センター(児童発達支援施設)に、保護者とアプリでやりとりできるシステムを導入。職員や保護者の負担軽減にとどまらず、現場の意識改革や市の他部門への波及効果にもつながっているという。単なるシステム導入にとどまらない広がりが評価され、「いわてデジタルトランスフォーメーション大賞2022」を受賞した。

北上市は公立保育園にシステムを導入。保育士がタブレット端末で出欠や連絡帳などを確認できる(北上市提供)

中心となってこのプロジェクトを進めているのが、北上市の都市プロモーション課でDXプロジェクト統括を務める大塚知彦氏。21年6月に民間公募から採用され、DX推進のリーダーを担っている。保育園DXとその広がりについて、大塚氏に話を聞いた。

職員も保護者も「変化」を体感できる

北上市 企画部 都市プロモーション課 DXプロジェクト統括の大塚知彦氏(北上市提供)

大塚氏は日本アイ・ビー・エム(IBM)出身。企業向けDX提案やマネジメントで培ってきた経験を生かそうと、北上市のDX推進リーダーの職に応募した。

縁のない北上市の公募に目をとめたのは、DXへの「覚悟」を感じたからだという。「コンサルティング会社に依頼したり、非常勤職員を採用したりするやり方もありますが、北上市は常勤職員としてDX人材を募集していました。市民と同じ目線で、意識改革も含めて取り組めると考えて応募しました」と振り返る。

大塚氏の着任後、最初に具体的なプロジェクトとして取り組んだのが、保育園DXだ。なぜ保育なのか。もともとは、市の療育センターから相談を受けたことがきっかけだった。児童発達支援の現場の負担は増しており、負担を軽減して利用者支援向上につなげることが大きな課題だという。

そんなとき、大塚氏がDXソリューションの展示会で目にしたのが、ユニファ(東京都千代田区)が提供する保育ICTサービス「ルクミ―」だ。出欠管理や連絡帳、おたより配信など、保育に必要な機能が多くそろっており、保護者のスマートフォンや施設のタブレット端末などにアプリをダウンロードすることで利用できる。

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療育センターの負担を減らす第一歩として、まずは出欠管理を簡単にできれば……との思いから持ち帰ったが、いざ導入の検討に入ると「保育園でも使えるのでは」と思い至った。

保育ICTサービス「ルクミ―」には、登降園の打刻・管理機能などがある(出典:「ルクミ―」公式サイト

デジタル化に対して、保育園の各園長と現場の職員らの反応は上々。さらに非接触で登降園や連絡帳対応が可能なことからコロナ対策にもつながり、すぐに導入の検討に入ることができた。

保育園を訪問し、園長や副園長と話す大塚氏(北上市提供)

また、ルクミ―導入の狙いは保護者側の“体験”にもある。大塚氏が公立保育園を実際に訪問して登園風景を観察すると、職員だけでなく保護者の様子も見えてきた。当時、登園や降園は保護者が紙に記入する方法で記録していた。一つ一つの作業に時間がかかるわけではないが、忙しい朝には煩雑だ。スマートフォンのアプリで完結できれば、保護者側もデジタル化による変化を体感できる。

「自治体DXというと、役所の業務効率化のイメージが強いですが、なかなか市民に伝わりづらい。DX推進のきっかけとして、住民目線で『変わった』と思ってもらえる取り組みが必要だと考えました」と大塚氏は話す。

デジタル化をきっかけに「意識」が変化

ルクミ―の導入は、22年夏から段階的に実施。施設によって規模や地域性が異なるため、登降園の打刻ができる機能から利用を始めて、徐々に連絡帳やおたよりの機能も追加していった。現在では7施設全てで連絡帳やおたよりを完全にデジタル化している。

公立保育園と療育センターでシステムを導入した(北上市立大通り保育園、北上市提供)

実際にルクミ―を利用している職員や保護者の反応はどうか。当初から、職員に対しては、システム導入による煩雑さを可能な限り軽減するため、各園の園長と職員が参加するグループチャットを作成。そこで相談や苦情などを受け付けたり、ルクミ―の紹介動画や説明書を共有したりすることで、現場との意思疎通を図っている。

質問や相談にチャットですぐに応じられるようにしたことで、「園で撮影した動画を保護者と共有できないか」「スマートフォンの音声入力を使ってみてもいいか」などといった相談を気軽にしてもらえているという。また、おたより機能を工夫して使う方法を紹介するなど、改善アイデアの共有の場にもなっている。

職員のミーティング風景(北上市提供)

さらに、保護者の反応も職員のモチベーション向上につながっているようだ。保護者からは「紙を探さなくてよくなって便利」「欠席連絡の電話が不要になった」「連絡帳に写真を付けてくれるのがうれしい」などと好意的な反応が寄せられた。そういった声を受けて、職員も写真を添付する機会を増やしたり、子どもたちの様子がうまく伝わる写真を撮影しようと工夫したりしているという。

「アプリを通じた動画や写真の共有は保護者に好評で、現場の保育士さんたちも『どう伝えるか』を意識してくれるようになっています」(大塚氏)。デジタル化をきっかけに、それまでは出てこなかった改善や工夫について、現場から自然にアイデアや意見が出てくるようになった。そんな意識改革は大きな成果となっている。

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