日本企業の“DXっぽい案件”でよくある3つの症候群 – 従来の「プロジェクト」と違う、DXの本質的な難しさ

  • 2022.11.25
  • DX
日本企業の“DXっぽい案件”でよくある3つの症候群 – 従来の「プロジェクト」と違う、DXの本質的な難しさ

日本企業の“DXっぽい案件”でよくある3つの症候群 – 従来の「プロジェクト」と違う、DXの本質的な難しさ

加藤:まずよくあるのが、とりあえずDX戦略室を作ってみました。で、社長に「あなたがDX戦略室長になってください」って任命されました。でもそれ以上なにも言われてないっていうパターンですね。「とりあえず」症候群です。

傍島:「とりあえず」症候群(笑)。

加藤:とりあえず室長になっちゃった、でも何をしていいのかわからないっていうパターンですね(笑)。こういう方もすごく多いんですよ。あとたぶんこれもよく聞く話ですけど、「それっぽいコンセプト」だけがあるDX。

傍島:(笑)。

加藤:それっぽいじゃないですか、「顧客情報を統合したいんですよ」って。確かにしたいのはわかるんですけど、それをどう活用するのかとか、それによってどういうメリットが生じるのかとか、そのへんがまだ詰め切れてない。ちょっとボヤっと「なんかこういうのやりたい」っていう。これはこれで悪い話ではないんですけど、そういうコンセプトだけがあるパターン。

あとは「ソリューションが欲しい」っていう方ですね。「マーケティングオートメーションがやりたいんです」っていう話。でもこのへんはやっぱり、これだけだとなかなか動けない。ソリューションを入れても周りを巻き込んでいかなくちゃいけないですし、そういう時に「マーケティングオートメーションやるんです」っていうだけだと、掛け声として弱いんですね。

DXが難しいのは「困っていない」から

加藤:こういう人たちってどうしても苦労しちゃっていて。なんで苦労してるのかというと、一言で言うと「特に今、困ってるわけじゃない」んですよね。困ってるわけじゃないんですけど、なにかやらなきゃいけないのでDXをやっちゃっている状態がよくある。

傍島:うーん、確かに。

加藤:で、本質的な難しさ。DXってなんで難しいのかっていうと、今までやってきた企業変革のプロジェクトだったりとか、ITを刷新するんだっていうプロジェクトって、基本的に「今困っている」プロジェクトなんですよね。

コストがかさみすぎてなんとかしなきゃいけないとか、今あるITのシステムは古すぎて、保守できるITの人が来年リタイアしちゃうから、今なんとかしなくちゃいけないとか。本当に「今困ってるからなんとかしなくちゃいけない」っていうのが、普通の今まであったプロジェクトなんですけど。

DXって、困ってない人たちが「会社をもっと良くしたい」「もっと明るい未来があるはず」っていうところを起点にスタートしてるプロジェクトなので、難しいんですよね。「もっと良いなにかって何なの?」「それってどういう絵なの?」とか、そのへんを描けてなかったり、ボヤーっとしちゃうので伝わらなかったり。そういうのがDXプロジェクトの本質的な難しさじゃないかなと思ってます。

従来のプロジェクトは“治療”で、DXは“予防”

傍島:なるほど。左側のことをやってて「DXだ」とか言ってる人は、多いですよね。とにかく紙とか手作業をやってるのをなにかやりたいんです、みたいな。

加藤:そうですね、左のプロジェクトもDXって呼んじゃってるパターンもけっこうありますけど。

傍島:多いですよね。

加藤:でもそれって、5年前でもやってたプロジェクトだと思うんですよね。DXっていう言葉がある前からもう「今困ってるからこれをなんとかしなくちゃいけない、業務改善プロジェクトを立ち上げるんだ」っていう話だったと思うんですよね。

それにたまたまDXってラベルをつけてるだけで、本当のDXは、やっぱり未来を見ていて。「今困ってるわけじゃないんだけど、明日のためになにかやっていきたい」っていうのが、本来のDXのある姿なのかなと思います。

傍島:なるほど。なかなかこれは深いですよね、本質的な難しさ。抜本的になにかを変えようっていうところが、冒頭にあったDXの定義だったりするので。なにか「ちょっと困ってるところが直りました」というよりは、未来に向かってやろうと。未来の病気予防じゃないですけど(笑)、そういうのに近いんですかね。もっとこうなりたいと。

加藤:そうですね。対症療法的に対応できたのが今までのプロジェクトだったんですけど、これからのプロジェクトは「体を鍛える」とか「食事に気をつける」とか「タバコをやめる」とか、そういう確実になにか良くしていくんですけど、でも何に向かっていくのかがはっきりしてないので、モチベーションにつながりにくい。そういう取り組みになるんですよね。

傍島:なるほど、ありがとうございます。

加藤:コンセプトとしてはそんな感じだと思ってるので、一言で言うと「問題解決型の取り組み」なのか「ビジョン駆動型の取り組み」なのか。その違いなのかなと思っています。

企業ビジョンからDXを考えるものあり

小川りかこ氏(以下、小川):ありがとうございます。それではここでご質問が届いておりますので、お答えいただいてもよろしいでしょうか。

3ついただいておりますが、まずは「レガシー企業(装置産業など)がトランスフォーメーション、ビジネスや組織の変革を実現する1つの方法として、デジタルも活用して企業ビジョンや目的から『別の方法ないの?』と新規事業を考えるスタイルもありでしょうか」というご質問です。いかがでしょうか。

加藤:このあと少し話したりしますけど、ビジョンの描き方ってトップダウンのアプローチとボトムアップのアプローチ、両方あると思っていて。今こちらでおっしゃってるのって、わりとトップダウンの「企業ビジョンとして、会社としてこういう姿を目指すんだ」っていうところからスタートしてします。

じゃあそれを少しブレイクダウンすると「デジタルを活用したら、こういう新規事業が立ち上げられますよね」とか「これをやると今の我々が向かっているビジョンに対してプラスにはたらくよね」って、そういう会社として向かう方向に沿ったかたちでのデジタルの活用はDXと完全に呼べると思いますし、そういうスタイルも当然ありだと思います。

小川:ありがとうございます。そしてもう1つ、ご質問きております。「アメリカでも『デジタイゼーションからデジタライゼーション』というステップを踏んだ時期があるのでしょうか」というご質問です。

加藤:デジタイゼーションからデジタライゼーション……どうでしょうね。業界によるんでしょうかね。デジタライゼーションというより基盤というか、ビジネスがデジタル上で発生するって感じなんですかね。

傍島:言葉がちょっと難しいですね。またこそっとQ&Aを入れていただければ、追加で後ほど。

草の根的な動きで、根本からビジネスを変えるのもあり

小川:ありがとうございます。それではもう1つご質問をご紹介いたします。「困りごとドリブンだと、既存ビジネスを問い直すことのない事例が多いのであまり良くない、いわゆる経産省が定義しているDXではない気がしていますが、最初の一歩としてはありなのでしょうか」というご質問です。

加藤:DXの定義が広すぎて、どうとでも捉えちゃうのでなんとも言えないんですけど、狭い意味でのDXという意味ではやっぱり「根底からビジネスを良くしていく」とか「根底からなにかを変えていく」という話になるので。「今困っているこのプロセスをちょっと直します」って、本来はあまりDXと必ずしもフィットしないと思うんです。

ただ日本のDXの使い方ですと、そこも含めてDXと言っちゃっていいと思いますし。会社を良くしていくって、必ずしも戦略的なポジションにいなきゃいけないとか、経営者じゃなきゃ変えられないっていう話ではなくて。

まずは自分の部署だとか自分の領域を自動化することからスタートして、それがちょっとずつ波及的に周りに広がっていけるとすると、それってすごく草の根的な会社を良くしていく活動になってきます。まずは自分のできる範囲でやっていくことは、すごく良い取り組みだと思うんですよね。

傍島:良いことですよね、まずは最初の一歩としてやっていくっていうのは。

加藤:逆に、社長の大号令が出ないと動けないのは良くないと思います。まずは自分の領域からとか、周りの自分の味方を見つけてとか。そういう草の根的なところができると結果も出やすいですし、良いかなと思いますね。

小川:ありがとうございます。ご質問いただいたみなさまも、ありがとうございました。

いいビジョンとは「世界観が伝わるビジョン」

小川:さぁ、それではやはりビジョンが大切ということですが、どのように描いていけばよいでしょうか。

加藤:ここにある「ビジョン駆動型の取り組み」が基本的にはDXプロジェクトなので、当然ですけどなによりも大切なのは「ビジョンを描くこと」ですよね。さっき言ったシリコンバレーの勝ち組の会社も、本当にビジョンが明確だからいろんな活動が明確になって、それに沿ったかたちで動けるので。

目指すべきビジョンを明らかにするってどういうことなのか、ちょっと説明しますと……良いビジョンってどういうものかというと、具体的なビジョンなんですね。それは一言で言うと「世界観が伝わるビジョン」、ちょっとデカい話ですけど(笑)。

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