[独自記事] 経産省のミスター「DX」が語るDXのツボ(2)

  • 2022.09.30
  • DX
[独自記事] 経産省のミスター「DX」が語るDXのツボ(2)

経済産業省 商務情報政策室 情報経済課
アーキテクチャ戦略企画室長
和泉憲明

古い人間の「思い込み」の世界とデータから見える世界が乖離している

例えば我が国がもっとも競争力があるのがゲームやアニメなどのコンテンツ産業だと思います。その世界ではデータをどう使っているかというと、例えばリアルタイムに課金データやダウンロード数がわかるわけです。もともとゲームやアニメなどの業界では、有名なディレクターとかクリエイターを呼んできて、その人の世界観を再現するために予算をつけたり人をつけたりして、その人の思い通りに作らせるのはコンテンツ産業の競争力となっていました。

私のような人間に「こんどパズルとドラゴンをくっつけたゲームをつくろうと思っているんですよ」と来ても「やめとけ」みたいな話になります。ところがリアルタイムに課金やダウンロードのデータがわかるので、「和泉さん、こないだダメって言ってた企画ですが、いま我が社の稼ぎ頭ですよ」といわれました。この業界では古いディレクターが軒並み地位を失っていて、データを見ながら「ここが稼ぎ頭だから予算を人をつけよう」とする会社が伸びています。古い人間の「思い込み」の世界とデータから見える世界がどんどん乖離しているのです。

「面で攻めてきている」他国に日本が負けている

産業競争力という点でも、いい製品いいサービスを作れば売れる、という話は通用しなくなっていて危機的な状況となっています。この話をすると役所の中では、すごく嫌われるのですが、製造業でも一個一個の産業機器や工業製品などはすごく優秀ですが、市場を失っています。例えば、東南アジアやアフリカなどで、我が国の最高の製品である新幹線が失注しまくっています。こういう話をすると製造局の参事官が記事を持ってきて「イギリスで新幹線の車両を何百台と受注しました」と言いますが、これは「車両」というモノになると勝っているのですけどね。東南アジアでは中国などによく負けていて、何が問題かといいますと、一個一個の製品では勝っているのですが、コンペで「日本の最高品質の車両です」とプレゼンしても「響かない」のです。「他には、何がいいですか?」と質問されて「線路の保線技術が最高峰です」といっても「他には、何がいいですか?」といわれて「響かない」。

一方で競争相手の、例えばシーメンスやダッソーのような会社は、「鉄道」や「電車」をプレゼンするのではなく「未来の都市」をプレゼンしているのです。そしてプレゼンの中にショッピングモール連携とか金融機関連携、さらに工業都市と商業都市の連携などといった未来の「都市モデル」を盛り込んできます。だから車両の性能で5分早く着くとかいうことよりも、ショッピングモール連携とか金融機関連携によって「豊かな生活」になることをプレゼンしてくるので、コンペで日本が負けてしまうのです。他国は社会インフラの中のモデルをつくって「面で攻めてきている」のに、日本は新幹線とか線路とか「粒で勝負」しているので、都市ごと持っていかれてしまいます。もう売り方も変わっているし、競争のルールも変わってきている中で、他国はそれを支えるデータをどう集めるかといったことも含めて真剣にやっているのに、日本はついていけていません。

(続く)

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