世界3大クラウドが進化を続けている。米Amazon Web Services（アマゾン・ウェブ・サービス）の「AWS（Amazon Web Services）」、米Microsoft （マイクロソフト）の「Microsoft Azure」、米Google（グーグル）の「Google Cloud」である。最近ではDX（デジタル変革）推進のニーズを受けて、アジャイル開発や高度なデータ分析に必要な機能に注目が集まる。今どのクラウド、どのサービスが秀でているのか。3大クラウドのサービス内容、機能、サポートなどについて39項目で徹底比較する。記事の最後には、調査結果の一覧表を掲載した。
今回はAI（人工知能）・機械学習モデルを比較する。2022年11月にMicrosoftが出資する米OpenAI（オープンAI）が一般公開した対話型AI「ChatGPT」は高精度の対話ができるとして大きな話題を呼んでいる。同社の持つ大規模言語モデル（LLM）「GPT」をベースとしていたが、同社は2023年3月には早くもこの最新版「GPT-4」を発表している。
他の2社の状況はどうか。グーグルは2023年3月、同社の持つLLM「PaLM」を用いたAPI（アプリケーション・プログラミング・インターフェース）を発表した。ほかにも「Google Workspace」に生成AI機能を追加するなど、マイクロソフトの後を追うように機能を拡充しつつある。AWSは今後の方針について「顧客からのフィードバックに基づいてサービス開発を進める」（広報）としているが、昨今の潮流を受けて同社も対話型AI提供に本腰を入れる可能性は十分にある。
このようにAIは急激な成長を遂げている分野の一つだ。学習済みAI・機械学習の視点から最新の状況に迫る。
学習済みAIで「AWSとAzureの順番が反転する可能性」
まずは学習済みAIを見ていこう。学習済みAIは提供事業者側で一定程度学習を積んだAIであり、実際に使用する際の学習量が少なくて済むというメリットがある。前述したChatGPTも学習済みAIに分類できるが、従来のAIに比べ圧倒的に学習量を抑えられるという特徴がある。オープンAIは1750億のパラメーターで学習済みの「GPT-3」に対して、さらに強化学習を施している。望む回答といくつかの教師データを与えるだけで、特徴量の抽出を自ら行い、より好ましい返答をする。
今後最も注目すべきサービスはマイクロソフトの「Azure OpenAI Service」だろう。同社が提供する「Power BI」や「Power Automate」といったサービスでは、プレビュー機能ではあるもののChatGPTと連係できる機能が実装されている。「このようなAIを作りたい」と自然言語で対話することで簡単にAIの実装や組み込みができるという。
野村総合研究所（NRI）の米川賢治クラウドインテグレーション推進部エキスパートは「（AWSとMicrosoft Azureの）順番が反転する可能性がある」と指摘する。従来はAWSのサービス展開をMicrosoft Azureがカバーすることが多かったが、ChatGPTの登場によってMicrosoft AzureをAWSが追う構図になる可能性があるという。
加えて日本マイクロソフトの田中啓之Azureビジネス本部カスタマーソリューションマーケティング部部長は「プライバシーの保護がしっかり考慮されている」ことがMicrosoft Azureの強みの一つだと話す。マイクロソフトは「責任あるAI」を実現するためのフレームワークを2019年秋に発表するなど、AIを活用する上でのガバナンスを重視している。AIの悪用を防ぐため、同社の持つ認証基盤「Azure Active Directory（Azure AD）」が開発現場で役立つ場面は多いだろう。
Google Cloudは画像解析サービス「Vision API」に加え、2019年発表の文字起こしAI「Speech-to-Text」などメディアトランスレーション機能を拡充している。AWSはコーディングの補助にAIを活用しており、2022年に発表した「Amazon CodeWhisperer」は実行したい処理をコメントで書き込むだけでAIがその処理を実装してくれる。
