企業は対処しようがないChatGPT活用
不公平な選抜方式を助長
大学生らの就職活動で、学生がエントリーシートの記入にChatGPTを使うケースが増えている。少し前から、どうやってChatGPTを使ってエントリーシートを書くかという“指南書”がウエブに溢れていた。
企業が学生のChatGPT使用にどう対応したかが報道されていないので、はっきりしたことは分からないのだが、禁止した事例はなかったようだ。仮に禁止したとしても、見破るのは難しいから、実際には多くの学生が使った可能性がある。
ChatGPTを使えば、使わない場合に比べて優れたエントリーシートを書くことができるだろう。だから不公平になる。では、どうしたら良いのか?
私は、この機会にエントリーシートそのものを廃止すべきだと思う。エントリーシートはこれまでも問題を抱えていた。
いまのエントリーシートは、膨大な数の潜在的応募者を試験場に集めて書かせるのはもともと無理なので、実際の試験や面接などに進む学生を選ぶ足切りに使われているのが実態だ。
学生は親や家庭教師が手伝っていた場合があったはずだ。それをチェックすることは難しかった。その意味で、これまでも不公平な選抜方式だった。また、助力を受ける可能性が認識されていたので、採用側がこれをどの程度重視していたかも疑問だ。
ChatGPTの利用でますますこうした点が助長される。
シートに書かせる内容自体に問題
「ガクチカ」が日本を滅ぼす
そもそもエントリーシートの最も大きな問題は、応募する学生に書かせる内容自体だ。志望動機や性格、価値観などを書いて、自己PRをする。とりわけ重視されるのが、「ガクチカ」だ。これは、「学生時代に力を入れたこと」を指す。
企業側はこれを見て、「社風に合っている人物か」「これから能力を発揮できる人物か」などを判断するというのだ。
しかし、ガクチカでやる気を判定するなど、全くのナンセンスだと思う。私の考えでは、「学生時代に最も力を入れたこと」に対する答えは、1にも2にも3にも、「勉強」でしかあり得ないからだ。
大学は専門的な知識を学ぶための場であり、スポーツ選手の合宿所でもないし、ボランティアの紹介センターでもない。社交場でもないしレジャーランドでもない。
もちろん、スポーツもボランティア活動も重要だ。しかしそれらは、勉強し読書をした後で、時間が余れば行うことだ。勉強はどうでもよくて、これらだけをやるというのでは本末転倒以外の何物でもない。
学校の成績などどうでもよいというのでは困る。これでは教育機関は存在意義を否定されたようなものだ。ガクチカがもてはやされる風潮にこれまでよく教育機関は抗議の声を上げなかったものだ。
エントリーシートは意味がないと誰も思いながら、惰性で続けられてきたのではないだろうか?
なお、エントリーシートはわれわれの世代の時代にはなかったものだ。それでも、採用活動は支障なく行われていた。エントリーシートは、ソニーが1991年に導入したものだとされる。
企業は「足切り」が必要なら
専門科目などの成績を基準に
企業が採用に当たって足切りが必要であれば、専門科目でどの程度の知識を持っているかを基準にすべきだ。それは大学の成績で評価されているはずだ。
企業はエントリーシートでガクチカを聞くのでなく、成績を聞けばよい。そうすれば、現在の制度よりずっと公平な判断ができるはずだ。エントリー段階で成績証明書を取るのが難しければ、学生に自己申告させればよい。いずれ後になって分かるから、虚偽申告はしないはずだ。