生成AIをめぐる狂騒、現場目線で虚実を見抜くには

  • 2023.08.05
  • AI
生成AIをめぐる狂騒、現場目線で虚実を見抜くには

 IT企業の最高経営責任者(CEO)が登壇する基調講演では、生成系人工知能(AI)に言及することがお決まりのパターンになった。

2022年終盤にOpen AIが「ChatGPT」を公開して以来、IT業界はAIの導入と活用に躍起になっている。

筆者は最近、ロンドンで開催されたIT関連のカンファレンスに参加したのだが、その展示会場は、上の方に大きく「ChatGPT」と書かれている看板を掲げた展示ブースで溢れかえっていた。

これはおそらく、今話題の技術トレンドをめぐる狂騒に便乗しようとする、主催者側の試みだったのだろう。

実際、その日の冒頭に行われた基調講演を聞いてみると、ある企業のCEOが、製品の発表は一際なかったにもかかわらず、AIの重要性について何度も言及していた。明らかに、AIを利用して存在感を高めようとすることが、そのイベントの全体的な雰囲気だったのだ。

もちろん、あらゆることを生成AIに結びつけようとする色気を見せていたのは、このIT企業(名前には触れないでおこう)だけではない。

米CNETの記事よれば、最近行われたGoogle I/Oの2時間の基調プレゼンテーション中に、GoogleのSundar Pichai氏やその他の幹部は、AIについて約143回言及したという。

生成AIについてできるだけ多く触れることがGoogleにとっていいことなら、ほかのIT企業にとっても、AIに一点集中するのが合理的なのだろう。

しかし、新技術をどう活用していくかを考える立場の人間からすれば、どうにかして本物と偽物を見分ける必要がある。

あらゆるIT企業がAIサービスを後付けしようとする中、現在のみならず、遠い将来にわたって自分たちのビジネスに価値をもたらしてくれる企業や製品を見分けるにはどうしたらいいのだろうか。

この記事では、4人のビジネスリーダーに、この問題にどう対処すべきか意見を尋ねた。

1.今すぐ検討を始める

Eコマース大手のWayfairで機械学習担当ディレクターを務めているTulia Plumettaz氏は、どのベンダーがAIを通じて最も価値を提供してくれるかを見極めるのは、一筋縄ではいかないと述べている。

「将来どうなるかについてはさまざまな意見がある」とPlumettaz氏は言う。「私の考えでは、現時点でこの分野がどの方向に進むかを予想するのは極めて難しい」

しかし同氏は、見通しが不透明だとしても、ライバル企業が生成AIを使って競争を有利に運ぼうとしている以上、手をこまねいているわけにはいかないとも考えている。

Plumettaz氏は、今から生成AIについての検討を始め、潜在的なユースケースを調べるためのパートナーベンダーを探すべきだと述べた。

同氏は、WayfairがSnorkel AIと連携して、消費者に提供するオンライン検索体験の質を高めようとしていると語った。同社はすでに機械学習を手掛けているが、それと同じように、生成AIについても検討していくという。

「AIが生産性にどのような影響を及ぼすかが分かってくるのはまだこれからで、今後多くの試みが行われるだろう」と同氏は言う。

「今はまだ仮説ばかりだが、物事が非常に速いペースで動いていくのは確実だ。何が企業の差別化要因になるのか?少数のモデルがこの分野を牛耳ることになるのか?それが、私たちがいまSnorkel AIと一緒に取り組んでいることの1つだ」

2.目的と企業文化に注目する

TSB Bankでデジタルマーケティングとパーソナライゼーションの責任者を務めているKavin Mistry氏も、自社の生成AIに関する検討に携わっている。Mistry氏もまた、この話題に関しては余計な雑音が多いと考えている。

「メールで送られてくるAI関連の売り込みが急激に増えたことに慄いているのは、私も同じだ」と同氏は言う。

Mistry氏のチームは現在、大局的なデータ戦略の一部としてAIの利用について検討している。TSB Bankは、その取り組みの一環としてAdobeと協力しているという。

同氏は、本物と偽物を見分けようとしている人に対して、2つの重要な要素に注目することを勧めている。

「どのプロセスでも同じだが、まず最初に、自分たちのニーズと、最終的なゴールと、どのようなモデルにしたいかを理解することが重要だ」とMistry氏は言う。

「私たちは通常、その後で、適切なベンダーを見つけるための調達プロセスを進める。私の考えでは、重要なのは自分の会社のニーズに合った、適切な規模の組織と技術を用意することだ。それは社内文化としっかりマッチしたものでなくてはならない」

3.古くからあるルールに従う

Legal & General Investment Managementのデータマーケットプレース責任者を務めるWulstan Reeve氏も、ビジネスニーズを重視するという考え方を取っている点では同じだ。

Reeve氏のチームは、「Cloudera Data Platform」でデータを統合して、分析情報を導き出すほかの分野での実験プラットフォームとして使っており、それにはAIも含まれるという。

Reeve氏は、ベンダーとパートナーシップを組んで生成AIを利用していこうという試みは、「古くからあるルール」に従う必要があると述べている。

「重要なのはビジネスバリューだ。AIを活用できるとびきりのユースケースがなければ、まずは遊んでみるだけでも構わないはずだ。しかし、遊んでみるだけなら、得られる予算も限られている」と同氏は言う。

「鍵になるのは、どうすれば売り上げやコスト削減につなげられるのか、非常に具体的につながりを示すことだ。従って私は、古くからあるルールの多くは、生成AIにも当てはまると思っている。ただし、多くの企業にとっては、AIに関する実験を安全に行う必要があるというのは正しい」

4.しっかりとした基礎を築く

Heinekenの戦略およびインサイト担当グローバル責任者Lalo Luna氏によれば、同社は、Stravitoの技術を使って、「Knowledge & Insight Management」と名付けられた社内プラットフォームで分析情報を共有しているという。

同氏のチームが今後数カ月の間に取り組む予定の優先事項の1つは、どのようにAIを活用し始めるかについて考えることだ。Luna氏は、Stravitoがそのための重要なパートナーになると期待している。

「私たちは、真剣にこの機能を発展させていきたいと思っている。しかし、Heinekenは分散型の企業であり、世界中でさまざまなことが起こっている」と同氏は言う。

「では、さまざまな拠点に情報が散らばっていると何が起こるのか?AIを最大限に活用したければ、まずそれらの拠点をすべて繋げる必要がある」

Stravitoは最近、従業員の検索体験を改善するために、製品に独自の生成AIエンジンを導入した。

Luna氏によれば、この種の機能強化は、Heinekenが、生成AIのような新興技術について、しっかりした標準化された基盤の上で検討するのに役立つはずだという。

「知識マネジメントの分野で分析情報の大衆化を進めるには、単一のメインプラットフォームがあった方がいい」と同氏は述べている。

「そうすればあらゆるものを繋ぐことができ、Stravitoがそのエコシステムの中心になるだろう。このプラットフォームでは、中央からさまざまなツールを利用でき、情報を調べるためにいちいち個別のツールにログインする必要はない」

ZDNet より

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