リポートでチャットGPT利用必須 「より深い研究を」大学模索

  • 2023.06.23
  • AI
リポートでチャットGPT利用必須 「より深い研究を」大学模索

対話型人工知能(AI)サービス「チャットGPT」などの生成AIが注目を集め、企業や自治体が導入を進めるなか、大学も2023年度に入って教育での活用を模索している。リポート作成などで安易な利用に注意喚起がなされる一方、積極的に取り入れる講義や研究の現場からは、利用を通じて学生の情報リテラシー(理解・分析力)を高める狙いも見えてきた。

「“新しい”の次を目指して」

「一瞬で心を奪われる、劇的な出会いを。運命の相手との幸せな結婚へ、一歩踏み出そう」「あなたの理想のパートナーがここにいます。全世代の未婚男女へ、あなたの人生を彩る出会いを提供します。あなたはどんな出会いを求めていますか?」――。これは結婚相談所の広告を想定し、チャットGPTが作りあげた架空のキャッチコピーだ。

九州大大学院システム情報科学研究院情報知能工学部門(福岡市西区)の荒川豊教授(45)は今年度、マーケティングのグループワークで、チャットGPTを使って消費者のクリック率が高い結婚相談所のウェブ広告を考える課題を出題した。学生らは、チャットGPTに恋愛の名言や実際の結婚相談所の広告文を学習させたり、広告に入れてほしいキーワードを指示したりし、より宣伝効果の高い文言を考えた。

学生らがチャットGPTを使って考案した結婚相談所の広告のキャッチコピーの例を示す九州大の荒川豊教授=福岡市西区の同大で2023年6月15日午後0時16分、栗栖由喜撮影

荒川教授は「情報系の研究分野では、世界にまだないサービスを生み出すことが求められる。学生たちには、チャットGPTのような最先端の技術に触れることで視野を広げ、さらに新しい『その次』を目指してほしい」と話す。

福岡工業大情報工学部システムマネジメント学科(同市東区)の藤岡寛之教授(48)も今年度、ウェブアプリのプログラム構築で、学生がチャットGPTを利用する機会を設けた。ゼミでは、野球の投球の軌道や回転数を測定できる機器のデータを日付や選手ごとに分析できるアプリを開発しているが、その過程で、適切なプログラミングのコードやエラーの原因が分からなくなる時がある。そこで学生はチャットGPTに質問し、手がかりを探る。

ゼミ生3年、大迫汐欄(しゅら)さん(20)は学びの分野でチャットGPTに触れてまだ3カ月弱だが「条件を細かく指定して的確な質問をしないと正しい答えが返ってこないので、こちらも工夫が必要」と印象を語る。藤岡教授は「チャットGPTが示すものを理解せず単にコピーするだけなら学びの価値はないが、人が主体的に、一つの補助ツールとして使うなど、上手に取り込むのが時代の流れだと思う」と話す。

「学生に試行錯誤の機会を」

リポートの作成でチャットGPTの利用を必須にした例もある。大分大(大分市)の経済学部経営システム学科で講師を務める碇(いかり)邦生さん(40)は、これまで3年次向けの人材マネジメントの講義で、学生に身近な課題に対し、解決につながるプロジェクト案を考えさせてきた。例えば「公共交通機関の不便さの解消」や「学生にとっていいアルバイトとは?」といった内容だ。

今年度は、課題に対する解決案の最初のアイデア出しをチャットGPTに任せ、学生はそれらに自分の意見を加えたり、誤情報を修正したりしてリポートを完成させる、という2段構えにした。

作成過程でチャットGPTが示したアイデアなどの画面は全て画像で保存させ、学生にリポートと共に提出させる。これにより、どこまでがチャットGPTのアイデアで、学生自身の視点や独創性はどれぐらい加わったのか確認できる。

碇さんは「何か新しいことを考えることは難易度が高く、知識や経験が未熟な学生は安易な発想に陥りがち。チャットGPTをアイデアのたたき台に生かすことで思考を深め、発想を生む補助になる」と期待。大学教育での積極導入について「生成AIは今後ますます社会に強く影響を及ぼす技術。リスクもあるが、学生たちにはいかに活用し、どのような価値を生み出せるのか試行錯誤する機会を与えるべきだ」と提言した。

毎日新聞より

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