「農業を憧れの産業にしたい」–NTT東日本ら3者、データ駆動型の営農支援プロジェクトを開始

  • 2023.06.07
  • AI
「農業を憧れの産業にしたい」–NTT東日本ら3者、データ駆動型の営農支援プロジェクトを開始

農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)とNTT東日本、NTTアグリテクノロジーは6月6日、データ駆動型「遠隔営農支援プロジェクト」の全国展開を開始すると発表した。同日に開催した記者会見では、みらい共創ファーム秋田 代表取締役者社長の涌井徹氏、農研機構 理事長の久間和生氏、NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員の澁谷直樹氏、NTTアグリテクノロジー 代表取締役社長の酒井大雅氏が登壇し、同プロジェクトの背景や意気込みを語った。

左から、収穫したタマネギを持つNTTアグリテクノロジー 代表取締役社長 酒井大雅氏、NTT東日本 代表取締役社長 澁谷直樹氏、農研機構 理事長 久間和生氏、みらい共創ファーム秋田 代表取締役者社長 涌井徹氏
左から、収穫したタマネギを持つNTTアグリテクノロジー 代表取締役社長 酒井大雅氏、NTT東日本 代表取締役社長 社長執行役員 澁谷直樹氏、農研機構 理事長 久間和生氏、みらい共創ファーム秋田 代表取締役者社長 涌井徹氏

同プロジェクトは、農研機構の専門家が有する知見や農業データ連携基盤「WAGRI」とNTT東日本やNTTアグリテクノロジーのICTを活用した遠隔営農支援のノウハウを踏まえた仕組みを組み合わせる。第一事例として、この取り組みの契機となったみらい共創ファーム秋田のほ場で、タマネギ生産における遠隔営農支援を行うという。

プロジェクトにおけるWAGRIの活用方法
プロジェクトにおけるWAGRIの活用方法

同プロジェクトの立ち上げに関わったみらい共創ファーム秋田の涌井氏は、「本プロジェクトを通して北海道から沖縄までの全国の農業者に、穀物から野菜まで多様な農産物の栽培指導をAIが自動的に判断し、営業指導員を補完する仕組みを構築することで、安定した農業経営の構築に貢献したい」と意気込みを語る。

遠隔営農支援では、生産者の農場や作物の映像・環境データを遠隔にいる専門家とリアルタイムに共有し、農場の土壌や気象、生育情報、作業履歴などのデータに基づいて農研機構の標準作業手順書(SOP)に沿った支援や指導を行う。

遠隔営農支援システムの概要
遠隔営農支援システムの概要

同プロジェクトの第1段階として、農林水産省事業である「戦略的スマート農業技術の実証・実装」を活用し、タマネギの新たな産地形成を進める秋田県大潟村のみらい共創ファーム秋田のほ場で実証を行う。現在、日本では6~8月の端境期において加工業務用タマネギ供給の多くを輸入に依存しており、今回の取り組みを通して東北地方での産地形成により、国産タマネギの周年流通を目指すという。

具体的には、農研機構の専門家がタマネギ栽培の支援・指導を行い、効果検証と技術の改善を図る。支援・指導にはNTT東日本とNTTアグリテクノロジーが提供する遠隔営農支援の仕組みを活用し、みらい共創ファーム秋田の生産者と専門家がリアルタイムで生産現場の映像やデータを共有し、情報交換を行う。専門家は、実際の発育状況や天候データを考慮した上で、収穫時期や注意点などを生産者に伝える。

みらい共創ファーム秋田のほ場と説明会の会場をつないだデモンストレーションを実施。左のモニターには、ほ場にいる生産者のスマートグラスから送られる映像が映し出され、右のモニターには現地の気象情報や土壌の状況などが映し出される
みらい共創ファーム秋田のほ場と説明会の会場をつないだデモンストレーションを実施。左のモニターには、ほ場にいる生産者のスマートグラスから送られる映像が映し出され、右のモニターには現地の気象情報や土壌の状況などが映し出される

また、気象や農地、収量予測など農業に役立つデータを蓄積するWAGRIのAPIを使うことで、農研機構のタマネギ生産SOPに即した技術的なアドバイスを行い、大潟村での新規就農者の収量を2倍近く増加させるとしている。農研機構の久間氏は、「農研機構としては、開発したシステムを徹底的に普及させることで日本の農業界が抱える高齢化・担い手不足の課題を解消するとともに、農業の生産性向上と持続性の両立を推進し、農業の発展に貢献したい」と語る。

第2段階では、この仕組みにAIを実装することで、気象情報や生育予測を踏まえた栽培作業計画や発生予察を考慮した病害虫防除計画、市場動態を予測した出荷計算などを生産者に自動で提示する予定だ。例えば、新規就農者には判断しづらい病虫害への対応は、病虫害診断サービスのAPIを用いることで、どのような病虫害かを診断し、特性や対応する農薬の情報を得られる。

ほかにも、生育予測APIでは定植日と気象APIで得た気象予報データを利用し、シミュレーションした数画時期や収穫量を営農計画に反映できるとしている。これにより、指導を行う専門家の負担の軽減につながるとしている。

同プロジェクトにおけるAIの活用イメージ
プロジェクトにおけるAIの活用イメージ

NTT東日本は、ICTアセットを活用して地域課題を解決する「REIWAプロジェクト」への同プロジェクトのデータ実装や、NTTグループが推進する次世代コミュニケーション基盤「IOWN」を活用する。これにより、農業データの安全な活用、農場にあるロボットなどの低遅延な遠隔操作、また環境負荷の低減につなげていくという。

人の代わりにほ場を周回し、映像データを収集するロボット
人の代わりにほ場を周回し、映像データを収集するロボット

NTTアグリテクノロジーの酒井氏は、同プロジェクトの背景として「国内における農業従事者の減少・高齢化」や「食の安定供給に対するリスク」など、農業分野の課題を提示。これらの課題を踏まえ、農研機構、NTT東日本、NTTアグリテクノロジーは2020年2月に連携協定を締結し、農業の生産性向上や生産者の所得向上を目的とした、データ駆動型農業の地域実装を推進してきたという。

以来、地域農業の発展や食の安定供給に寄与するプロジェクトを共同で進めてきた。さまざまなプロジェクトを進める中で、データ駆動型農業に対する期待の高まりが見えてきたという。

農業生産の現場では多様な作物と環境条件、市況を考慮した的確な判断が重要になるが、ベテラン生産者の減少や高齢化により、技術の継承や指導を現場で適宜行うことが難しくなってきている。このような状況の中で生産者の「安定生産と栽培のリスクの低減のため、データに基づく栽培の専門家の支援を受けたい」という要望に対し、品種特性や栽培技術などに知見のある専門家が遠隔で効率的・効果的に営農を支援できるようにするため、遠隔営農支援プロジェクトが発足した。酒井氏は、「このプロジェクトを通して、農業という産業を憧れの産業、そして強い産業にしていきたい」と意気込みを語った。

また、NTT東日本の澁谷氏は「農業の生産性向上やサプライチェーンの裾野の広がり、DXを通した産業基盤の強化は非常に期待されている領域だと考えている。さまざまなパートナーと共に食の分野での社会的要請を担いたいと思っている」と同プロジェクトへの期待と志を明らかにした。

今後、同プロジェクトは対象の作物とエリアの拡大を行い、3年をめどに全国へ展開し、将来的には海外への展開を予定しているという。

ZDNet より

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