身近な企業に使われつつあるAI、その解決すべき課題とは?

  • 2023.06.06
  • AI
身近な企業に使われつつあるAI、その解決すべき課題とは?

ChatGPT」という言葉は、今やほとんどの人が知っているだろうが、実際に職場で使っているという人はほとんどいないはずだ。大規模言語モデル(LLM)に基づいた生成型の人工知能(AI)であるこのツールは概して、質問に対して比較的まともな回答を返してくれるとはいえ、重要な業務に利用するには安全ではないと見なされており、現時点では主に試用の対象となっているにすぎない。

ノートPCの画面を指さす様子

しかし、企業環境に格納されているデータに焦点を当て、言語モデルを企業環境向けにパッケージ化するという取り組みが現時点で進められている。その一方で、AIのプラクティショナーや専門家は、AIやLLMの開発には慎重さが必要であると警鐘を鳴らしている。

これは、AIのプラクティショナーや専門家300人を対象にしたexpert.aiの調査によって得られた知見だ。同社のレポートの著者らは「企業に特化した言語モデルに未来がある」と記すとともに、「業務部門や技術部門の幹部は、AIのこの新たな夜明けをどのように活用し、AIによる言葉の壁の破壊をどのようにして問題解決に結びつけていくのかという計画を自社の取締役会から、また次第に株主らからも求められるようになってきている」と記している。

この調査によると、企業の3分の1以上(37%)が既に、企業独自の言語モデルを構築しようと検討しているという。

また同時に、AIプラクティショナーは言語モデルの構築や保守は簡単な作業ではないと認識している。企業の多く(79%)は、企業に特化した有益かつ正確な言語モデルを訓練する取り組みが「大変な作業」だと認識している。

とは言うものの、その取り組みは既に始められている。LLMの導入に向けて予算を組み、プロジェクトを訓練しているチームも既に存在している。また回答者の17%は2023年の予算を確保しており、18%は予算の割り当てを計画中であり、40%は翌年の予算について議論しているという。

同レポートの著者らは「これは納得できる話だ。というのも、ChatGPTのようなLLMの訓練に用いられたパブリックドメインデータの大半は、企業での利用に耐えられるものではなく、特定分野に特化したものでもないためだ」と記すとともに、「言語モデルが特定分野に特化したデータで訓練されていたとしても、それが金融サービスや、保険、ライフサイエンス、ヘルスケアといった垂直業界のものであるか、あるいは契約書のレビューや、医療費の申請、リスクアセスメント、詐欺検出、サイバーポリシーのレビューといった極めて特殊なユースケースのものであるかにかかわらず、企業における複雑なユースケースのほとんどに対応できるモデルとはならないはずだ。訓練の取り組みには、高度に特化したユースケースにおける、高い品質と一貫性あるパフォーマンスが求められる」と記している。

調査対象となったエンタープライズAIの推進者が生成型AIに抱いている懸念のトップはセキュリティであり、73%の回答者が挙げている。また、真実性の欠如も懸念となっており、70%の回答者が挙げている。さらに、半数以上(59%)の回答者は、特にGPTといったLLMにおける知的財産(IP)や著作権の保護について懸念している。同レポートの著者らは、「訓練にはインターネット上で広く公開されているデータが用いられており、その一部は著作権で保護されている」とし、「(訓練データが)インターネット上で公に利用可能になっているが故に、本質的にGarbage In, Garbage Out(ごみを入力するとごみが出力される)となっている」と記している。

AIによって、特定の作業では人的リソースの必要性が低減するかもしれないが、皮肉なことにAIの構築や保守にさらに多くの人手が必要となる。AI推進者の10人に4人以上(41%)が、企業向けの生成型AIの開発や実装に必要な専門性とスキルを有するプロフェッショナルの不足に懸念を表明している。

また、回答者の3分の1以上(38%)は、LLMの実行に必要な計算リソース量に関する懸念を表明している。同レポートの著者らは、言語モデルの大規模展開をサポートするにはパワフルなサーバーやクラウドコンピューティングサービスといったインフラが必要だと記している。

企業が言語モデルを導入する際には、データのプライバシーやセキュリティのほか、インフラやリソースの要求、既存システムとの統合、倫理面や法律面での配慮、スキルや知識のギャップを含むさまざまな要素を考慮した上で、慎重な計画と検討の実施が必要となる。

どの新興テクノロジーについても言えることだが、導入を成功させられるかどうかは、従来の方法と比べて著しい進歩を実証できるユースケースの有無にかかっている。同レポートでは、以下のような生成型AIのユースケースが考えられるとして考察している。

  • ヒューマンコンピューターインタラクション(HCI):企業向けの言語モデルはエンドユーザーや顧客に対して「製品の詳細や、トラブルシューティング時の手引き、FAQといった情報やサポートへの迅速かつ容易なアクセス」を提供する。現段階において最も多いユースケースはチャットボット(54%)や、質疑応答(53%)、顧客対応(23%)だという。
  • 言語の生成:「生成型AIは新たなコンテンツの記述や、リアリティーある画像の生成、マーケティング用のコピー作成、作曲のほか、プログラムコードの記述すらできる」とされており、現段階で最も一般的な例は、コンテンツの要約(51%)とコンテンツの生成(45%)となっている。
  • 情報の抽出:ここでの上位のユースケースは、知識のマイニング(49%)と、コンテンツの分類およびメタデータの生成(38%)となっている。また、ルーティングのためのコンテンツのカテゴリー分類(27%)や、エンティティーの抽出(20%)も挙げられている。
  • 検索:「多くの無関係な情報に目を通さなくとも、必要とするものを迅速かつ的確に見つけ出すための重要なツール」として、汎用検索(39%)や、セマンティック検索(31%)、リコメンデーション(29%)が挙げられている。

ZDNet より

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