なぜ、基幹システムのクラウド移行は進まないのか–日本オラクル社長に聞いてみた

なぜ、基幹システムのクラウド移行は進まないのか–日本オラクル社長に聞いてみた

企業の基幹システムのクラウドへの移行はなぜ、進まないのか。クラウドベンダー各社から移行した顧客事例が紹介されるようになってきたが、“山”はまだまだ動いていない。その理由について、日本企業の多くの基幹システムで使われているデータベースを提供している日本オラクル社長の三澤智光氏に聞いてみた。

Oracleのクラウド基盤が「唯一無二」と言う理由

「当社のお客さまの基幹システムは、現在ほとんどがオンプレミスで動いている」

日本オラクルが4月14日に都内ホテルで開催したプライベートイベント「Oracle CloudWorld Tour Tokyo 2023」の基調講演で、三澤氏はこう語った。情報系を中心とした業務システムのクラウド移行は進みつつあるが、基幹システムの動きはまだまだ鈍いのが実態だ(写真1)。

写真1:記者会見に臨む日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏
写真1:記者会見に臨む日本オラクル 取締役 執行役 社長の三澤智光氏

ちなみに、三澤氏は講演で基幹システムでなく「ミッションクリティカルシステム」と表現していたが、その中でも「社会や企業の活動の基盤を支えるシステムが当社の得意領域」と講演後の記者会見で説明していたので、本稿では以下、その領域を基幹システムと表現する。

三澤氏は講演で、パブリッククラウドのIaaS/PaaSについて「技術的には『マイクロサービス+ステートレスデータベース』からなる。それによって、数多くのスタートアップ、そしてユニコーン企業を生み出してきた」と説明。一方、「当社のお客さまの基幹システムは、現在ほとんどがオンプレミスで動いており、その仕組みは『モノリス+ステートフルデータベース』からなる」と述べ、「パブリッククラウドと基幹クラウドの仕組みは相容れないものがある」と説いた。冒頭の発言は、この一連の説明から抜粋したものだ。

その上で同氏は、「当社はIaaS/PaaS市場に10年以上遅れて参入したが、一方でその分、最新技術をいち早く取り入れた。その結果、今ではパブリッククラウドと基幹クラウドの両方に必要な仕組みを実装した唯一無二のクラウドを提供できるようになったと自負している」と胸を張った。

この講演でのスピーチを受けて、筆者は講演後に行われた記者会見の質疑応答で、「日本オラクルのユーザーの基幹システムは、現在ほとんどがオンプレミスで動いているとのことだが、なぜ、クラウドへの移行が進まないのか。現時点で移行した割合(クラウド比率)はどれくらいなのか。さらに、三澤社長は2021年秋の会見で『5割を超える企業が5年以内に基幹システムをクラウドへ移行する』と明言したが、その見立ては今も変わらないか」と聞いてみた。

この質問の後半部分は、同社が2021年11月に開いたクラウド事業に関する記者会見で、「日本企業の基幹システムのクラウド比率が、5割を超える時期が来るとしたらいつ頃になると見ているか」と聞いた筆者の質問に、同氏が「5年以内に超える。多くの企業が次のシステム更新時期にクラウド化を検討するようになる」と答えたことについて、改めて変更がないかを確認したものだ。

その際の質疑応答のやりとりについては、2021年11月11日掲載の本連載記事「基幹システムユーザーが多いオラクルに求めたい『基幹クラウド率推移の明示』」をご覧いただくとして、今回の質問について同氏は以下のように答えた。

日本企業の基幹クラウド率は「現時点で5〜10%」

「日本の社会基盤や大手企業の基幹システムのおよそ8割にはOracleのテクノロジーが使われているので、当社のお客さまにおける状況で市場全体の基幹クラウド率を推し測ることができるだろう。それを踏まえて言うと、現時点では5%から10%といったところだ。キャズムを超えるのはまだまだこれからだ。ただ、ここにきて、例えば、野村総合研究所のリテール証券会社向けバックオフィスシステム『THE STAR』が当社のクラウド基盤で稼働開始した動きに象徴されるように、これまでにない大規模な基幹システムのクラウド移行の事例も出てきたので、これから市場が本格的に動き出すのではないか。日本は市場が動き出すとスピーディーに加速していく傾向があるので、私たちはそれに拍車をかけていけるように注力していきたい」

ただ一方で、次のようにも語った。

「日本企業の基幹システムのクラウドへの移行がなぜ、進まないのか。基幹システムをクラウドへ移行する際には、まずシステムをそのままクラウドへリフトすることから始まるが、その時点で結構なコストと時間がかかるという話があり、お客さまが二の足を踏んでしまっているケースも見受けられる。また、基幹システムのクラウドへのリフト、そして(クラウド仕様に適合していく)シフトへと進めていくためには、この分野のスキルを持つエンジニアをきちんと確保しておくことも重要だ。そうしたクラウド移行へのコストや時間、エンジニア不足といった課題を解消していくためにも、日本のIT業界の意識や行動を変えていかなければならない。そうしないと、日本企業の基幹クラウド率が5割を超える日はなかなかやってこない」

さらに、こう続けた。

「基幹システムをクラウドへ移行することで得られるメリットは幾つもあるが、お客さまのお話を伺っていると、やはりまずはコスト削減への期待が一番大きい。そこで、当社では今、移行によってコスト削減を図った導入事例をもっとたくさん参考にしていただけるように注力している。ポイントは、その事例作成をパートナー企業と協力して進めていることだ。パートナー企業と共に事例の内容を明示することで、お客さまから安心してご相談いただける環境づくりに力を入れていきたい」

基幹システムのクラウドリフトを巡っては、システムインテグレーター(SIer)から「移行の期間は3年、コストは数十億円」といった提示を受けたというユーザー企業の話を耳にしたこともある。これでは旧態依然とした基幹システムの開発と意識的に変わらず、ユーザー企業がクラウドリフトの段階で二の足を踏んでしまうのは当然だ。

筆者の質問に対し、三澤氏は10分近く時間をかけて「三澤節」全開で答えた。日本企業の基幹システムのクラウドへの移行が進まないことに相当の危機感を抱いているとお見受けした。「日本のIT業界の意識や行動を変えていかなければならない」との発言は、覚悟の上だろう。質問者として、同氏のこの覚悟は書き記しておかなければならないと考えた次第である。

ZDNet より

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