理解ではなく「受容」していく–青山学院大学・エリック学部長に聞く、DE&IとZ世代

理解ではなく「受容」していく–青山学院大学・エリック学部長に聞く、DE&IとZ世代

昨今、ESG(環境、社会、ガバナンス)の推進や競争力の強化に向けてダイバーシティー、エクイティー&インクルージョン(DE&I)に取り組む企業や、1990年代中盤~2000年代序盤に生まれた「Z世代」の社員との関わり方を思案するビジネスパーソンが散見される。

そんな中、青山学院大学 地球社会共生学部 教授 学部長でアバナードのデジタル最高顧問も務める松永エリック・匡史氏は、LGBTQ+の人々に寄り添おうとする「Ally(アライ)」としての活動や情報発信など、DE&Iに取り組むとともに、自身のゼミナール「エリックゼミ」を中心に学生たちと日々対話している。

プロミュージシャンやエンジニア、コンサルタントという多彩なキャリアを経て、4月から同学部の学部長となったエリック氏。DE&Iに対する考えやZ世代との関わり方、教育分野での意気込みを聞いた。

松永 エリック・匡史氏。青山学院大学 地球社会共生学部 教授 学部長/アバナード デジタル最高顧問/音楽家
松永 エリック・匡史氏。青山学院大学 地球社会共生学部 教授 学部長/アバナード デジタル最高顧問/音楽家

–DE&Iに関心を持ったきっかけを教えてください。

ゲイ・ディスコからスターになった米国のバンド、Village Peopleが「Y.M.C.A.」をリリースした時、初めてダイバーシティーを意識しました。その後Culture Clubが登場し、「Do You Really Want To Hurt Me」という曲のミュージックビデオでは、ボーカルのBoy Georgeが中性的な格好をしているだけで警察に連行されるシーンがあり、かなり衝撃を受けました。「何かおかしくないか?」と思って。当時は「LGBTQ+」という言葉はありませんでしたが、まずはそうした人々に関心を持つようになりました。

–DE&Iに取り組む企業が増えている一方、属性やバックグラウンドが違う人々が一緒になって働くと、意見の違いによる衝突もあるのではないかと感じます。その乗り越え方について、どのように考えていますか。

DE&Iにおける僕の基本的な考えとして「他者を完全に理解できるとは思わない」ということがあります。人は「理解することで共感できる」と思いがちですが、共感って自分の能力で相手を理解することではなく、受け入れることなんですよね。「こういう人もいるんだ」っていう。これはすごく難しいことですが、自分のゼミ生にも伝えています。

–企業におけるDE&Iでは、女性役員の比率を増やすなどの動きに対し、「単なる数合わせではないか」という意見も挙がっています。

一番大事なのは、「評価制度の見直し」だと思っています。要は、男女という性別が評価に影響してしまうことが問題なのです。フェアな評価をすれば、男性ばかりになることは考えにくく、そこに活躍する女性がより現れることが自然だと思います。評価に性別は関係ないのです。

逆に、最近よくある、実際の評価を無視した役員の人数合わせは、間違いだと思っています。基本に立ち返って、「なぜ、その人が役員になったのか?」を説明できるようにしないと、「あの人はどうせ数合わせだ」と、反発やさらなる偏見につながる恐れがあります。

一方、エクイティーの視点も重要です。ただ、性別による体の違いは無視できません。例えば、子供を持った時、育児の分担を工夫できても、妊娠から出産自体を男性が代わることはできません。その期間をいかにフェア評価にするかというのは、企業の役割であり、さまざまな配慮が必要でしょう。まず企業は、自社が求める人材像を明らかにし、本当に貢献してくれている人を見極めることが大切です。後は、その人材をいかに中長期的に育み、企業と共に成長していくかを考えるべきです。貴重な人材は、一時的な体調不良や1年ほどのブランクで価値が損なわれるものではないと思っています。

アバナードでは最近、DE&Iなど社会課題の分野でエンジニアとしてできることはないかと模索する動きがあります。テクノロジーとダイバーシティーの親和性は高いはずです。例えば、デジタルを活用して人事評価を客観的に行ったり、テレワークを導入して個人の体力差をカバーしたりすることが考えられます。

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