2017年9月7日
株式会社クラウディット 中井雅也

Chromebookは教育市場からエンタープライズへ向かう?

Chromebook(クロームブック)は、Googleが開発しているオペレーティングシステム「Google Chrome OS」を搭載しているノートPCだ。調査会社Futuresource Consultingによれば、2016年の米国K-12 (幼稚園から高校までの教育) 市場へのノートPC/タブレット出荷台数は前年比18%増の1260万台で、OS別ではChromebookに搭載されている「Chrome OS」が8ポイント増の58%でトップ、2位はWindowsで22%、3位はiOSで14%だった。

IMG_7360Chromebookの外観。10秒程度で起動できる。

Googleによれば世界で2000万人の学生がChromebookを利用しており、教育分野のITにおけるひとつのトレンドとなっているようだ。一方、国内ではやはり米国の教育市場ほどではないが、最近エンタープライズ用途でChromebookを採用するというニュースを見かけるようになった。

参考情報

クラウド図鑑では、Chromebookを仕事用PCとして2年以上使い続けてきた経験から、あらためてメリット、デメリットを整理するとともに、国内のエンタープライズ用途に適用できるか考えてみた。
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使用しているハードウェア
DELL Chromebook 11

Chrome OS
11.6インチ光沢液晶 (1,366×768)
インテル Celeron 2955U (1.40GHz)
2GB DDR3L メモリ
インテル HD グラフィックス
16GB SATA SSD

Chromebookは何が良いのか – 5大メリットのまとめ

1. 俊敏な動作と長持ちバッテリー

筆者は2015年の5月に3万円ほどでビックカメラでChromebookを購入した。正直なところ、Chromebookを長く使い続けるとは思っておらず、Windows PCに対するセカンドカー的な位置付けで特定の用途に使えればよいという考えだった。しかし、Chromebookの軽快で俊敏な動作に慣れるに連れ、Windows PCの動作が重く感じるようになり、立場は逆転し、いまではMicrosoft Officeという特定の用途でしかWindowsは使わない。Chromebookの操作感覚はPCよりスマートフォンやタブレットに近いものであり、必要なときに即座に開いて使い終わったら即座に閉じる。

IMG_7373WordPressのようなWebアプリケーションは快適に使用できる。

Chromebookでは、基本的にはChromeブラウザ(とその上のアプリ)しか動かないためCPUやメモリーなどへの負担が少なく動作が軽快で電力消費も少ない。バッテリーも約8時間(購入当時)と長持ちするのでアダプターなしでほぼ1日使える。購入してから2年以上が過ぎたが、いまでも俊敏な動作と長持ちバッテリーというメリットは失われず良い仕事道具である。筆者はChromebookのブラウザーで20以上のタブを開きGoogleのG Suite(旧Google Apps)で快適に文書作成や表計算、プレゼン作成などを行っている。

2. 意外に多いアプリ

動作が俊敏でバッテリーの持ちが良いことに加えて、意外だったのは利用できるアプリ(またはオンラインのWebサービス)が多いことだ。もちろんWindowsやMacに比較して多いとは言えないしExcelやWordも動かない。しかし、代用アプリ、またはWebサービスが数多くあり、ExcelならG Suiteの「スプレッドシート」が、WordならG Suiteの「ドキュメント」が、PowerPointならG Suiteの「スライド」がある。

IMG_7376G Suiteの「スライド」プレゼンテーション作成画面

これらはMicrosoftほど高機能ではないが、企業の通常業務に必要十分な機能を提供する。また、継続的な自動保存(そもそも保存のボタンがない)や、複数ユーザーによる同時編集などは一度その便利さを知ると手放せなくなる機能だ。オフィスソフト以外にも、画像や動画の編集などさまざまな代用アプリまたはWebサービスがあるが、本稿はエンタープライズ用途を前提としているので詳細は割愛する。

IMG_7374ChromebookからAmazon EC2にログイン

GoogleはAndroidアプリおよびアプリストアのGoogle PlayをChrome OSに対応させると発表しており、今後さらにアプリは増えて行くだろう。しかしながら、エンタープライズでChromebookを活用するために鍵となるのは G Suiteであろう。

3. 安い

Chromebook本体の価格は3万円程度からであり、総じて安いと言える。しかしながら、これはハードウェアとOSのみの価格であり、実際にはその上で利用するソフトウェアの費用が必要となり絶対的に安いわけではない。これは後述のデメリットで解説する。

4. セキュリティ

現時点においてウィルスやマルウェアが攻撃対象とするOSはほぼWindowsであり、絶対数が少ないChrome OSを標的とすることは考えにくい。Chrome OSにはGoogleによるウィルス対策ソフトウェアが内蔵されており、自動更新が行われる。データは基本的にクラウド上のストレージ(Google Drive)に保存されるため、データを持ち出されるリスクは低い。ローカルストレージへの保存も可能だが、これは設定によってログアウト時に消去することができる。またローカルストレージに保存されるデータは暗号化されている。

5. 管理のしやすさ

前述したようにChromebookを活用するための鍵になるアプリはG Suiteであり、これを活用してデータをGoogle Driveに保存するというスタイルを確立できれば従来のPCの管理の煩わしさが少なくなるだろう。なぜなら、常にデータは堅牢なGoogleのクラウド上にあるため、手元のChromebookが壊れても、別なChromebook、あるいは別のWindows PCやMacからでもブラウザさえあればG Suiteで仕事が継続できる(ただし業務系のアプリもWeb化されていることが前提だ)。また前述したようにセキュリティ関連に関してもChromebookは手間がかからない。さらに、すべてのChromebookの設定を一元管理するためのWebベースの設定機能「管理コンソール」がある。ユーザーID管理に関しても、Chrome Enterprise によって Active Directoryと連携できる。

Chromebookは何が問題か – 5大デメリットのまとめ

1.苦手な分野がある

Chromebookでは基本的にChromeブラウザしか動作しないため、ブラウザで使える一般的なWebサービスまたはSaaS、Chrome拡張機能(Extension)、Chromeアプリしか使えない(Chtomeアプリは将来的にAndroidアプリで置き換えられる)。したがってネイティブなWindowsソフトウェアは動かず、例えば専門性の高いデザイン分野のIllustrator、プログラミングのVisual Studioなどは使えない。下記にあげるような分野はChromebookでは対応が難しいだろう。

  • プロフェッショナルなデザイン分野 (Illustrator、InDesign、Photoshopを駆使するような)
  • プロフェッショナルな3Dグラフィックやデザイン、CADなど
  • .NETでの開発 (Visual Studioを駆使するような)
  • スキャナーのような周辺機器接続が必要な分野

2. Microsoft Officeが動かない

Chromebookをエンタープライズ用途で利用する場合に最大のデメリットとなるのはMicrosoft Officeが動かないことだろう。しかしながら「動かない」ということは「見れない」ことではない。現在、Microsoft Officeのデータを表示できるサードパーティのアプリやサービスは、G SuiteやDropbox、Box、Dropboxなど多数ある。

IMG_7377G Suiteの表計算画面

本家MicrosoftもOffice Onlineを提供しておりChromebookのブラウザで表示および編集が可能である。しかし、これらの方法は100%の互換性を保証しないためChromebookを導入してもMicrosoft OfficeをインストールしたWindows PCをゼロにすることは難しい。ポイントは、「Microsoft OfficeをインストールしたWindows PC」が全社員に必要なのか、今後どれだけお金を払うか、を整理することであろう。

3. 一般的なPCとは違うところがある

よく指摘されるところであるが、最も一般的なPCと違うところは、 Chromebookが「ネット接続を前提としている」ということだ。しかしネット接続なしで動かないかというとそうでもない。小さいながらもローカルストレージを持っており、G Suiteの「オフラインで使用する」モードを使えばネット接続なしで文書、表、プレゼンテーションの編集が可能である。現在の日本においてネット接続が問題になる場所はあるかもしれないが、そのような場所を避ければChromebookは使用可能だと思われる。また、指摘されるのがChromebookのキーボードが一般的なPCとは少しだけ違っているところだ。

IMG_7370Chromebookのキーボード

具体的には「Delキーがないこと」「Functionキーの並びと機能が違うこと」などであるが通常の業務使用に大きな影響を与えるものではないだろう。

4. 周辺機器が制限される

Chromebookの大きな制約は周辺機器のドライバが自由にインストールできないことだ。つまり周辺機器の直接的な接続に関してはWindowsやMacのようにはいかない。プリンターに関してもChromebookで使えるのは基本的にGoogle クラウドプリント対応のプリンターだけであり機種は限定され、全般的に印刷関連に関してはWindowsやMacと同等の完璧さを求めてはいけない。その他、スキャナー、デジタルカメラ、さまざまなデバイスに関してWindowsやMacのように容易に接続ができるとは思わないほうがいい。

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側面の周辺機器ポート。HDMI、USB、サウンドジャックなど。

しかしながら、AndroidアプリがChromebookで使えるようになるに連れ状況が変わる可能性がある。最新のカメラ、ドローン、ロボットなどのデバイスの多くはスマートフォンを最優先のデバイスと考えており、世界的なシェアが高いAndroidには対応せざるを得ないからだ。

5. 絶対的に安いわけではない

Chromebookの価格は、一般的なモデルでおよそ3万円前後。これは安いといえる。しかし、これはハードウェアとOSのみの価格であり、さらに必要なソフトウェアに費用がかかる。まずエンタープライズの利用においては、GoogleのG Suiteが必要になり、1ユーザー月額600円、年額7200円の費用がかかる。さらに企業での利用には必須であろうChromebook設定を一元管理するための「管理コンソール(CMC)」が1台あたり約2万円ほどの費用がかかってくる。つまりエンタープライズの利用において初期費用は1台あたり6万円程度必要になる。Dellの直販サイトなどでMicrosoft OfficeライセンスつきのWindows PCが6万円台で販売されていることを考えるとChromebookが「絶対的に安い」とはいえない。しかし従来のPCコストを1台あたり10万円程度でみていたなら、相当なコスト削減ができる。

Chromebookは企業内のどのような部門・ユーザーに向いているのか

業務アプリケーションがWeb化されていることが大前提になるが、まず最初に思いつくのはコールセンターや事務センターなどだ。このような場所においては「データの持ち出し」を制限する必要があるが、Chromebookならローカルストレージにデータを保存させず、また管理コンソールからUSBデバイスやスクリーンショットの使用制限ができる。Microsoft Officeについても一部のユーザーが使えればよく、レポート等はPDFにして閲覧するなど、運用を工夫すればよい。業務アプリケーションがWeb化されていれば、購買や経理などもChromebookを取り入れやすいだろう。ただし、このような部門では既存の申請書類などがExcelで作成されていることが多く、これは再作成が必要になるだろう。マーケティングや販売促進の部門もChromebookを取り入れやすいと思われる。多用するであろうWebブラウザは快適に使えるし、G Suiteが得意とする情報共有や共同作業の機能が有用だと思われる。営業部門では、おそらくB2Cの店舗などで使うなら問題は少ないだろう。問題が多いと思われるのはB2B、法人の営業部門だ。外部とのやりとりにどうしてもMicrosoft Officeが必要になるからだ。また外勤の営業が外部で仕事をするにあたりChromebookでは不満を持たれる可能性も高い。

Chromebookを国内企業が採用するには

従来のPCとはまったく違う思想を理解する必要がある。いわば「クラウド端末」なので社内の情報システムおよび社員のクラウド対応が進んでいることが前提となる。Chromebookを活用するためのチェックポイントとして以下があげられる。

  • 業務アプリケーションがWeb化されていること、またはWebペースのSaaSを多用していること
  • データをクラウドストレージ(Google Drive)に保管することに抵抗がない
  • WIFI環境が整っていること
  • G Suiteに移行すること
  • プリンターなど周辺機器について割り切れること

Windows 7 のサポート終了は2020年1月14日で、あと2年半を切っている。Chromebookやタブレットのような新しいタイプのデバイスを検討することはいいことだが、もっと大事なのはWindows PCやソフトウェアの購入費用、管理や運用について見直すとともに、社内の情報システムのクラウド化をあわせて検討することではないだろうか。アプリケーションとデータをクラウドに置くことによってPCのOSへの依存が少なくなりChromebookやタブレット、スマートフォンなど新しいテクノロジーを取り入れやすくなるのだ。