クラウド図鑑 Vol.82
概要
「IBM Bluemix」はIBMが提供するPaaS (Platform as a Service) のサービスである。2013年に20億ドルで買収したIaaSの「SoftLayer」のインフラに10億ドル以上を投資して「Cloud Foundry」ベースのPaaSを構築し、IBM、オープンソース、サードパーティの数多くのソフトウェアを統合し100種類以上のサービスを提供している。IaaSのSoftLayerとPaaSのBluemixは以前は独立した2つのクラウドサービスだったが、米国時間2016年10月25日に統合が発表され、「Bluemix Infrastructure」として、ひとつのコンソールでひとつのIDによって両方が操作できるようになった。SoftLayerのIaaS機能の統合以外にもBluemixはさまざまな拡張や強化が行われている。クラウド図鑑において2015年9月にBluemixを紹介した当時にはなかったSLAが規定され、セキュリティやコンプライアンスに関しても「金融機関等コンピューターシステムの安全対策基準」(FISC安全対策基準)に対応している。いずれにしても、SoftLayerのIaaS機能を搭載したBluemixはPaaSの枠を超え、以前にも増して多機能なクラウドになった。一方で、いまだにパブリッククラウドのPaaSサービスにおいてSoftLayerの日本のデータセンターが使えないなど、インフラ面での課題もある。しかしながら適材適所を考えながら使えば、Watsonやアナリティクス系のサービスを組み合わて、他クラウドで実現困難な高度なアプリケーションを開発できる。Bluemixには無料の期間限定トライアルと期間が過ぎても使える無料枠があるのでアカウントを作成して試してみることをおすすめする。
URL http://www.ibm.com/cloud-computing/jp/ja/bluemix/
2015年11月30日 株式会社クラウディット 中井雅也
機能
これまでの「IBM Bluemix」は「Cloud Foundry」をベースとした開発者向けのPaaSである。Java, PHP, Python, Ruby, ASP.NET Coreなどアプリ開発のためのプログラミング言語環境と、アプリから呼び出されるデータベースや分析などの「サービス」をカタログから選んでアプリに組み込むことで、従来型のエンタープライズアプリケーションでも、WatsonによるコグニティブコンピューティングやIoTのような新しいアプリケーションでも、幅広く、かつ、迅速に開発できる。さらに米国時間2016年10月25日に発表されたSoftLayerの統合によって、ベア・メタル・サーバーを含むiaaS機能がBluemixのコンソールから利用できるようになり、以前にも増して多機能なクラウドとなった。しかしながら、現時点でSoftLayerの全てがBluemixに完全に統合されたわけではなく、PaaSのサービスにおいてはSoftLayerの東京データセンターは利用できないし、SoftLayerのひとつの利点である日本語のサポートも使えない(IaaS部分に関してはSoftLayerの従来どおりの日本語サポートが使える)。つまり、コンソール画面の入り口は統合されたものの、SoftLayerとBluemixという2つのクラウドが1つになったわけではないことを留意する必要がある。現時点で、IBMによれば、従来のSoftLayerのコンソールも当面残っていくとのことである。
以下にBluemixの機能を紹介する。約30種類におよぶ「データ&分析」や、コグニティブコンピューティングの「Watson」、話題の「BlockChain」やIoT(モノのインターネット)などのサービスが豊富に提供されていることが特徴的である。2016年11月時点で以下の機能が提供されている。
- インフラストラクチャー/計算 コンピュート (5)
- 時間単位のベア・メタル・サーバー
-
時間単位の仮想サーバー (パブリック・ノード)
-
月単位のベア・メタル・サーバー
-
月単位の仮想サーバー (パブリック・ノード)
-
VMware ソリューション
- インフラストラクチャー/ストレージ (6)
- CDN
- FTP/NAS
-
IBM Cloud Object Storage – S3 API (OPEN TRIAL)
-
Object Storage Standard Regional Swift API
-
ファイル・ストレージ – エンデュランス
-
ブロック・ストレージ – エンデュランス
-
ブロック・ストレージ – パフォーマンス
- インフラストラクチャー/ネットワーク (10)
-
Citrix NetScaler VPX 専用ロード・バランサー
-
Direct Link Cloud Exchange
-
Direct Link コロケーション
-
Direct Link ネットワーク・サービス・プロバイダー
- IPSec VPN
- VLAN スパンニング
-
Vyatta ゲートウェイ・アプライアンス
- サブネット/IP
- ドメイン・ネーム・サービス
- ローカル・ロード・バランシング
-
- インフラストラクチャー/セキュリティ (3)
-
FortiGate セキュリティー・アプライアンス
- SSL証明書
- ハードウェア・ファイアウォール
- ハードウェア・ファイアウォール(専用)
-
- アプリ/ボイラープレート (16)
-
ASP.NET Core Cloudant Starter
-
Internet of Things Platform Starter
-
IoT for Electronics Starter
-
Java Cloudant Web スターター
-
Java Workload Scheduler Web Starter
-
LoopBack Starter
-
MobileFirst Services Starter
-
Node.js Cloudant DB Web Starter
-
Personality Insights Java Web Starter
-
Personality Insights Node.js Web Starter
-
StrongLoop Arc
-
Liberty for Java/ClearDB MySQL ボイラープレート
-
Node-RED Starter
- Python ボイラープレート
-
Ruby Sinatra
-
Vaadin Rich Web Starter
-
- アプリ/Cloud Foundry ランタイム
- Liberty for Java
- SDK for Node.js
- ASP.NET Core
- Swift
- XPages
- Go
- PHP
- Python
- Ruby
- Tomcat
- アプリ/コンテナー (6)
- ibm-backup-restore
- ibm-integration-bus
- ibm-node\strong-pm
- ibm-wa-agent
- ibmliberty
- ibmnode
- アプリ/OpenWhisk (1)
- OpenWhisk
- アプリ/モバイル (9)
- Mobile Analytics
-
Mobile Application Content Manager
- Mobile Client Access
- Mobile Foundation
- Mobile Quality Assurance
- Push Notifications
- Kinetise
- Testdroid Cloud
- Twilio
- サービス/データ&分析 (31)
- Apache Spark
-
BigInsights for Apache Hadoop
-
Cloudant NoSQL DB
-
Compose for Elasticsearch
-
Compose for etcd
-
Compose for MongoDB
-
Compose for PostgreSQL
-
Compose for RabbitMQ
-
Compose for Redis
-
Compose for RethinkDB
-
dashDB for Analytics
-
dashDB for Transactions SQL Database
-
Data Connect
-
Decision Optimization
-
Geospatial Analytics
-
IBM DB2 on Cloud
-
IBM Graph
-
IBM Master Data Management on Cloud
-
IBM Watson Machine Learning
-
Information Server on Cloud
-
Informix on Cloud
-
Insights for Twitter
-
Lift
-
Streaming Analytics
-
Weather Company Data
-
ClearDB MySQL Database
-
Cupenya Insights
-
ElephantSQL
-
Namara.io Catalog
-
Redis Cloud
-
TinyQueries
- サービス/Watson (16)
-
AlchemyAPI
-
Conversation
-
Document Conversion
-
Language Translation
-
Language Translator
-
Natural Language Classifier
-
Personality Insights
-
Retrieve and Rank
-
Speech To Text
-
Text to Speech
-
Tone Analyzer
-
Tradeoff Analytics
-
Visual Recognition
-
Cognitive Commerce
-
Cognitive Graph
-
Cognitive Insights
-
- サービス/モノのインターネット (8)
-
Internet of Things Platform
-
Context Mapping
-
Driver Behavior
-
IoT for Electronics
-
IoT for Insurance
-
AT&T M2X
-
Car Diagnostic API
-
flowthings.io
-
IQP IoT Code-Free App Development
-
XpertRule Decision Automation for node-RED
-
- サービス/API (1)
- API Connect
- サービス/ネットワーク (2)
- Content Delivery (CDN)
- Virtual Private Network (VPN)
- サービス/ストレージ (1)
- Object Storage
- サービス/セキュリティ (5)
- Access Trail
- Application Security on Cloud
- Key Protect
- Single Sign On
- Adaptive Security Manager (ASM)
- サービス/DevOps (14)
- Active Deploy
- Auto-Scaling
- Availability Monitoring
- Continuous Delivery
- Delivery Pipeline
- Globalization Pipeline
- IBM Alert Nortification
- Monitoring and Analytics
- Track & Plan
- BlazeMeter
- HipTest
- jKool
- Load Impact
- New Relic
- サービス/アプリケーション・サービス (23)
- BlockChain
- Business Rules
- Data Cache
- Message Hub
- Session Cache
- WebSphere Application Server
- Workload Scheduler
- APIs from Pitney Bowes
- box
- CloudAMQP
- DreamFace
- Mapbox Maps
- Memcached Cloud
- Moni.ai
- Payeezy
- PubNub
- Reappt from Push Technology
- Searchly
- SendGrid
- Simplicite aPaaS
- Statica
- Ustream
- Vantrix Transcoder
- サービス/統合 (5)
- API Connect
- Secure Gateway
- Service Discovery
- Service Proxy
- Rocket Mainframe Data
使いやすさ
日本語コンソール画面からアプリケーション開発のためのリソースや環境の導入・設定などを行うことができる。開発言語やDBなどアプリケーションに必要な環境を一括で導入・設定するボイラープレートが多く用意されており、JavaやNode.jsなどの環境をマウスクリックだけで簡単に設定できる。プログラミングは、ローカル環境からコマンドライン使用(cfツール)、Git CLIでのデプロイ、Bluemix DevOps Serviceを使用するなどの方法に加えて、プラグインによって人気の高い統合開発環境のEclipseなどと連携が可能。
マニュアルや書籍など
ドキュメントやチュートリアルがIBMから数多く提供されている。IBM developerWorksからも情報が多く発信されている。機能が広範に及ぶため日本語になっていないものもある。
拡張性
仮想マシン/ベアメタルサーバー/インスタンスは、CPU数、メモリーなどのバリエーションが豊富で、例えばリソースを多く必要とするデータベース「DB2 on Cloud」では32CPU、1TBのベアメタルサーバーも使える。また、SoftLayerでは高度な並列処理が必要なアプリにはNVIDIAのGPUを搭載したハードウェアも使える。一方で、ロードバランサーと自動スケールのアドオン「Auto-Scaling」によって、水平なスケーリングによる大規模処理が可能。
可用性
アプリケーションのスケールアウトによる冗長化と、DB2 on CloudやdashDB for Transactions SQL Database のHA機能、あるいは、NoSQLのCloudantのデータレプリケーション機能によって可用性を高めることができる。SoftLayerではグローバルな負荷分散が可能だが、従来のPaaSとしてのBluexmixではデータセンターをまたがる冗長化のオプションは提供されていない。ベースとなっているSoftLayerのインフラ自体は多数のデータセンター拠点を持ち、高速なグローバルネットワークによって地理的な分散がしやすいため今後の可用性関連の機能拡張に期待したい。
SLA
2016年11月の最新のSLAドキュメントでは、Bluemix Publicを複数リージョンで分散配置した場合かBluemix Dedicated、Bluemix Localを地理的に離れたデータセンターに分散配置した場合でPlatform Serviceに対して99.95%の可用性を、単一の環境にBluemix Dedicated、Bluemix Localを配置した場合で99.5%の可用性をサービスレベルとして規定し、これに達しない場合は使用料金が割り引かれる。ただしIBMはSLAをよく変更するので(2016年だけで3バージョンある)、最新のSLAを確認する必要がある。
自動化機能
アプリケーションに対するインフラのリソースは自動的に割り当てられ、管理もIBMによって行われる。IBM DevOps ServicesとBluemixを連携させることで、サービスを中断することなく新しいアプリケーションをデプロイするプロセスを自動化することができる。
セキュリティ
インフラを提供しているSoftLayerの高い物理セキュリティやコンプライアンス基準への準拠を踏襲する。Bluemix上のアプリケーションに独自ドメインを設定して証明書を導入してSSLを使用して通信を暗号化することができる。また「金融機関等コンピューターシステムの安全対策基準」(FISC安全対策基準)にも対応した。Bluemixは、パブリックのマルチテナントのPaaSだけでなく、パブリックのシングルテナントのPaaS「Bluemix Dedicated」、さらにオンプレミスの「Bluemix Local」のオプションがあるため、セキュリティの要件にあわせて選択することができる。SoftLayerもハードウェアを専有するベアメタルサーバーにより、リソースの共有によるセキュリティリスクを低減できる。
データセンターの場所
マルチテナントのパブリックPaaSとしてのBluemixは米国、イギリス、シドニーのデータセンターからの提供となる。ただし、利用できるサービスがリージョンによって異なるので、現時点では米国を選択するのが無難である。シングルテナントのBluemix DedicatedではSoftLayerの東京データセンターも選択できる。オンプレミスのBluemix Localは、当然だが任意のデータセンターで稼働させることができる。SoftLayerのIaaSは東京を含む世界40ヶ所以上のデータセンターを利用できる。
実績・シェアなど
Bluemixとしてのシェアなどは公表されていないが、IBMの事例情報によれば、AnswerHub、ePersona、Bernhardt Funiture、BP3、BYTE、eyeQ、Jibes、Kiwi Wearables、ノルデア銀行、Silverhook、Synchrony Systems、Tangerine Bankなどが利用している。日本では、IoTをMQTTプロトコルで実現したHEATEC、Bluemix Dedicated を採用した広島銀行などがある。
エコシステム
エコシステムを拡大中であり、「IBM Cloud marketplace」を開設して同社やサードパーティのクラウドサービスをセルフサービスを購入できるようにしている。国内のユニークな取り組みとして「地方銀行向けBluemixコンソーシアム」がある。
価格および支払い方法
基本的に従量課金でクレジットカートによる支払いとなる。6ヶ月、12ヶ月、36ヶ月のサブスクリプションでは割引きが適用される。
クレジットカード登録なしで30日間のトライアルができる。トライアル期間の後も無料枠が用意されており、枠を超えると主に使用メモリーと利用時間に応じて費用が発生する。例えば256MBメモリーの2インスタンスは無料だが、512MBの2インスタンスは月額$24.15となる。コンテナーの場合は、256MBメモリーの2インスタンスは無料だが、512MBの2インスタンスは月額$10.22となる。データベースのサービスなどは別途費用が発生するがNo SQL のCloudantでも無料枠が用意されており、データ量が1GB/1秒あたり20 Lookups/10 Writes/5 Queriesまでなら無料で使える。シングルテナント専有型のBluemix Dedicatedは月額約400万円から、オンプレミスのBluemix Localは個別見積りとなる。
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