クラウド図鑑 Vol.79
概要
Oracle のクラウド「Oracle Cloud」は、業界でもトップクラスの広範なサービスを提供する。ERPやCRM、人事などエンタープライズ・アプリケーションを提供するSaaS、強みであるデータベースやミドルウェアを提供するPaaS、コンピュートやストレージのサービスを提供するIaaSまで、ラインアップは多岐に渡る。2016年9月に開催されたイベント「Oracle Open World」では、Oracleの最高技術責任者(CTO)Larry Ellison氏によれば「AWSに比べ、コアは2倍、メモリも2倍、ストレージは4倍で、コストは20%減。」というベアメタルのクラウドを含む第2世代のIaaSを発表し、AWS対抗を強く打ち出した。Oracleは、この新IaaSの開発のために、数100人規模のエンジニアをMicrosoft, Amazon, Googleなどからリクルートし、他のIaaS同様の「Compute」「Network」「Storage」に加えて、ベアメタルサーバ−の「Oracle Bare Metal Cloud Services」、Dockerコンテナーを提供する「Oracle Container Cloud Service」、VMwareやKVMの仮想環境のワークロードを取り込む「Oracle Ravello Cloud Service」など幅広いサービスをラインアップする。本稿では、OracleのIaaSの中で基本となる「Oracle Compute Cloud Service」について解説する。Oracleによれば、LinuxベースのCompute Cloud Service (2vCPU/15GBメモリー) で時間あたりの価格を比較すると、AWSが 0.166ドル、 Microsoft Azure が1時間あたり 0.185ドルに対し、Oracle Cloud は 0.1ドルで低価格であるという。しかしながら、2016年11月時点では、Oracle Compute Cloud Service のユースケースは限定的で、使用できるOSの種類や、日本にデータセンターがないことなどの課題を理解しながら導入を検討すべきだろう。AWSに対抗するべく投入した「Oracle Bare Metal Cloud Services」のような性能や可用性は現時点の Compute Cloud Servic は提供しないと考えるべきで、今後の機能拡張に期待したい。
Oracle Compute Cloud Serviceの設定画面
(クリックで拡大)
URL https://cloud.oracle.com/ja_JP/compute
2016年11月2日 株式会社クラウディット 中井雅也
機能
Oracle Compute Cloud Serviceは、共有リソースで仮想マシンを実行するマルチテナント環境の「汎用コンピュート」、および、サーバーを専有し仮想マシンを実行するシングルテナント環境は、x86サーバーベースの「Dedicated Compute」と、SPARCサーバーベースの「Dedicated Compute – SPARC Model 300」を提供する。
インスタンスのリソースは、1vCPU/7.5GBメモリーから16vCPU/240GBメモリーまで、あらかじめvCPU数とメモリーのサイズを組み合わせた「Shape」を選択して設定する。 ストレージは、仮想マシンに最大2TBのボリュームを10個までアタッチ可能。
ネットワークは、一般的なsshによるアクセス、さらに、オンプレミスからのVPNが提供される。セキュリティ・リストとセキュリティ・ルールを使用して、インスタンス間のネットワーク・トラフィックや、特定のインスタンスと外部ホストとの間のネットワーク・トラフィックを制御することができる。
OSは、Oracle Linux、Ubuntu、CentOS、Debian、Windows Server 2008/2012、Solarisが選択できる。エンタープライズ向けのLinuxで一般的なRed HatとSUSEは提供されない。
インスタンス作成の設定作業とネットワークやストレージの設定を「Orchestration」として定義してJSON形式のファイルをクラウドに保管することで、プロビジョニングの自動化、および、ハードウェアなどの障害発生時にインスタンスが別ハードウェアで自動再作成が可能。また、インスタンスのバックアップのためのスナップショット機能を提供する。
インスタンスのCPU使用率やストレージのI/Oの状況をモニタリングし、コンソールにグラフ表示し、しきい値を超えた場合にアラートをだすことができる。
2016年11月時点での、Oracle Compute Cloud Service の用途について、Oracleは「パブリック・クラウドでの小規模なテストおよび開発環境で仮想マシン virtual machines for test and development environments in the public cloud on a small scale (汎用コンピュートの場合)」「アプリケーションをパブリック・クラウドに移行させたいが、クラウド内の他のテナントからのハードウェア分離を維持し、VPNトンネルを介してサイトにアクセスするオプションを求めているお客様 when you want to move your apps to the public cloud but want to maintain hardware isolation from other tenants in the cloud (Dedicated Computeの場合)」としており、大規模なWebスケールのアプリケーションのユースケースを想定していないと考えられる。
使いやすさ
日本語化されたコンソールからグラフィカルにインスタンスの操作ができる。
マニュアルや書籍など
OracleによってWebコンテンツやマニュアルは日本語化されているが、ホワイトペーパーなど英語のままのものも多い。現時点では、英語のものも含めてネット上の情報が少ない。
拡張性
Database Cloudは、CPUとメモリーのリソースは最大16CPUコア相当240GBメモリーまでのインスタンスが作成可能。2016年11月時点での、Oracle Compute Cloud Service の用途について、Oracleは「パブリック・クラウドでの小規模なテストおよび開発環境で仮想マシン virtual machines for test and development environments in the public cloud on a small scale (汎用コンピュートの場合)」「アプリケーションをパブリック・クラウドに移行させたいが、クラウド内の他のテナントからのハードウェア分離を維持し、VPNトンネルを介してサイトにアクセスするオプションを求めているお客様 when you want to move your apps to the public cloud but want to maintain hardware isolation from other tenants in the cloud (Dedicated Computeの場合)」としており、大規模なWebスケールのアプリケーションのユースケースを想定していないと考えられる。
可用性
インスタンス作成の設定作業とネットワークやストレージの設定を「Orchestration」として定義してJSON形式のファイルをクラウドに保管することで、プロビジョニングの自動化、および、ハードウェアなどの障害発生時にインスタンスが別ハードウェアで自動再作成が可能。また、インスタンスのバックアップのためのスナップショット機能を提供する。現時点のOracle Compute Cloud Serviceにおいては、AWSにおけるAvailability Zone (AZ) のようなデータセンターアーキテクチャはなく、複数データセンターを使った冗長化のオプションはない。新しいベアメタルサービス「Oracle Bare Metal Cloud Services」は、AWSのAZ同様の3つのデータセンターを使うアーキテクチャになっているので、Compute Cloud Serviceでも同様のアーキテクチャに拡張されることを期待したい。
SLA
明確なSLAの規定はない。
自動化機能
インスタンス作成の設定作業とネットワークやストレージの設定を「Orchestration」として定義してJSON形式のファイルをクラウドに保管することで、プロビジョニングの自動化ができる。REST APIにより、プログラムから各種リソースの操作ができる。
セキュリティ
セキュリティ・リストとセキュリティ・ルールを使用して、インスタンス間のネットワーク・トラフィックや、特定のインスタンスと外部ホストとの間のネットワーク・トラフィックを制御できる。Dedicate Compute では、専有サーバーにより、分離されたシングルテナント環境により、リソース共有によるセキュリティリスクを減らすことができる。さらにDedicated Compute – SPARC Model 300では、SPARC M7プロセッサのSecurity in Silicon機能により、メモリー内のデータ、メディア上のデータ、ネットワーク経由で転送されるデータに対する攻撃を防御する。独自のSilicon Secured Memoryにより、メモリーの読取り/書込み攻撃やプログラミング・エラーからクラウド・アプリケーションを保護する。
データセンターの場所
北米を中心に、グローバルのデータセンターでクラウドサービスを運用している。昨年、2015年内に日本にもデータセンターを開設すると発表されたが、2016年11月の時点ではオープンしていない。
実績・シェアなど
導入社数やシェアなどは特に公開していない。
エコシステム
現時点で、Oracle Compute Cloud Service のエコシステムは初期段階であり、今後の拡充を期待したい。
価格および支払い方法
Oracleによれば、LinuxベースのCompute Cloud Service (2vCPU/15GBメモリー) で時間あたりの価格を比較すると、AWSが 0.166ドル、 Microsoft Azure が1時間あたり 0.185ドルに対し、Oracle Cloud は 0.1ドルで低価格であるという。しかしながら、実際にはストレージやネットワークの使用料やデータ転送量も発生する記述もあり、正確な価格を把握しにくいため、Oracleに確認する必要がある。
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