クラウド図鑑 Vol.78

 PaaSプロバイダーごとの特性や使い分けの参考資料となることを目的として、前編の「“PaaSの選択” 大手8社を比較する (1)」では、大手8社、すなわち、Salesforce、AWS、Microsoft、Google、IBM、SAP、GE、Oracleのアプリケーションサービスについてまとめた。後編の本稿では、PaaSおよびクラウド全般の選択にあたって重要度が増しているデータベースのクラウドサービスについてまとめた。
いうまでもなくデータベースはエンタープライズITの最重要コンポーネントであり、高い安定性や可用性、セキュリティなどが求められるため、クラウドへの移行にあたって慎重な検討が必要だ。逆にいえば、既存のオンプレミスからクラウドへの移行の大きなハードルとなっているのがデータベースであり、これをクリアできればオンプレミスからパブリッククラウドへの切り替えを加速できるだろう。
 一方で、現時点におけるデータベースのクラウドサービスにおいては、IaaSにおけるAWSほどに明確なリーダーは存在しない。しかしながら、2015年10月12日にガートナーが発表した「Magic Quadrant for Operational Database Management Systems」においては、通常のデータベースベンダーとしてのMicrosoft、Oracleに続いて、AWSが初めてLeaderとして位置づけられており、データベースの市場においてクラウドサービスが無視できない状況になってきている。
 AWSは2009年からリレーショナルデータベースのクラウドサービス「RDS」を提供しており、そのアクティブユーザーは10万を超えたという。そして、2015年に本格的に提供した「Aurora」は、高性能およびAWSのデータセンターのアーキテクチャを活用した高い可用性を低価格で提供している。さらにAWSがDBのマイグレーションを支援する「AWS DMS(Database Migration Service)」および「AWS SCT(Schema Conversion Tool)」などによって2000を超える顧客がAWSクラウドにデータベースを移行したという。
データベースのクラウドサービスの多くは「マネージドサービス」といわれる運用を含めたサービスになっており、ハードウェアやOS、データベースのソフトウェアのメンテナンスやデータのバックアップなどはクラウドプロバイダーによって行われ、面倒な運用作業を大幅に減らすことができる。しかしながら、バックアップのスケジュールや頻度、ログの運用、さまざまな構成オプションなどはプロバイダーの決めたルールや設定に従う必要があり、オンプレミスと同じにはできないと思ったほうがいい。これを割り切ってクラウドに委ねられるかどうかが検討のポイントとなるだろう。

2016年10月26日
株式会社クラウディット 中井雅也

代表的な PaaS プロバイダーとそのデータベースサービス

本稿は、 PaaS プロバイダーごとの特性や使い分けの参考資料になることを目的としており、後編ではデータベースサービスについてまとめた。

【 Salesforce 】

アプリケーションサービス Force.com
Heroku
データベースサービス Force.com データベース
Heroku Postgres  (PostgreSQLベースのRDB)
Heroku Redis (NoSQL)
HerokuにおいてサードパーティによるMySQLなど
概要 Force.comにおいては、抽象化されたデータベースを「SOQL」という言語によってデータベースを意識せずに操作が可能。
Herokuにおいては、一般的なRDB「PostgreSQL」とNoSQL「Redis」がマネージドサービスとして用意されている。
長所
  • Force.comの生産性の高い開発環境からシームレスに使えるデータベース
  • Fouce.comのビジュアルなデータベースツール
  • Herokuから簡単に使えるRDBとNoSQL
  • Herokuと同様に処理能力が拡張できるデータベース
  • Force.comは日本のデータセンターが使用できる
課題
  • Force.comは「ガバナ制限」と呼ばれる制約があり、大量アクセスや大容量データを扱うアプリケーションが制限を受ける
  • HerokuはAWSを基盤とするが日本のデータセンターは使用できない
  • Force.com, Heroku ともにオンプレミスのIT環境との互換性
  • Force.com, Heroku ともにオンプレミスへの配備オプションがない
  • データウェアハウスのサービスがない
推奨されるユースケース
  • 社内のビジネスアプリケーション(Force.com)
  • 社内のワークフロー(Force.com)
  • 高スケールのWeb/モバイルアプリ(Heroku)
  • 無数のユーザーにアクセスされるアプリ(Heroku)

【 AWS 】

アプリケーションサービス Elastic Beanstalk
データベースサービス Amazon RDS (Aurora, MySQL, PostgreSQL, MariaDB, Oracle, SQL Server)
DynamoDB (NoSQL)
RedShift (DWH)
概要 AWSの可用性や拡張性のメリットを継承しながら、豊富な種類のデータベースサービスを提供する。
長所
  • RDSにおける複数データセンターを使った可用性 (Multi AZの配備オプション)
  • 処理能力の拡張および縮小
  • RDBのマネージドサービスの選択肢が多い
  • RDBによるトランザクション処理、NoSQLによる大規模処理、データウェアハウスなど、豊富なサービスのラインアップ
  • 日本のデータセンターが使用できる
課題
  • メンテナンスの時間がありダウンタイムをゼロにはできない
  • オンプレミスへの配備オプションがない

【 Microsoft 】

アプリケーションサービス Azure App Service
データベースサービス SQL Database (SQL Server)
Document DB (NoSQL)
テーブルストレージ (NoSQL)
SQL Data Warehouse (DWH)
サードパーティ連携によるOracle、MySQL、PostgreSQL、MongoDBなど
概要 Azureの可用性や拡張性のメリットを継承しながら、豊富な種類のデータベースサービスを提供する。
長所
  • SQL Database のデータ多重化による可用性
  • 処理能力の拡張および縮小
  • RDBによるトランザクション処理、NoSQLによる大規模処理、データウェアハウスなど、豊富なサービスのラインアップ
  • 日本のデータセンターが使用できる
課題
  • MicrosoftによるRDBのマネージドサービスはSQL Database (SQL Server) のみ
  • オンプレミスのSQL ServerとAzure SQL Database は全く同一というわけではない

【 Google 】

アプリケーションサービス Google App Engine
データベースサービス Cloud SQL (MySQL)
Cloud Datastore (NoSQL)
Cloud Bigtable (NoSQL)
Bigquery (大規模データ検索)
概要 MySQLとNoSQLのマネージドサービス、および、通常のデータベースを超える巨大なデータ検索のためのBigqueryを提供する。
長所
  • Cloud SQL のデータ複製による可用性
  • 処理能力の拡張および縮小
  • Googleが自社で使っているBigtableによる巨大なNoSQL処理
  • Googleが自社で使っているBigqueryによる巨大なデータ検索
  • 2016年11月8日に東京リージョンの正式運用が発表された。
課題
  • オンプレミスのIT環境との互換性
  • オンプレミスへの配備オプションがない
  • 2016年10月時点では最新・第二世代のCloud SQLはベータという位置づけ
  • 2016年10月時点で日本のデータセンターはベータという位置づけ

【 IBM 】

アプリケーションサービス Bluemix
データベースサービス SQL Database (DB2)
Cloudant (NoSQL)
dashDB (DWH)
サードパーティ連携によるMySQL、PostgreSQL、MongoDBなど
概要 IBM系のデータベース技術 (DB2, Cloudant, dashDB)をBluemixのマネージドサービスとして統合し幅広い処理に対応。
長所
  • IBM系データベース技術との互換性
  • dashDBのイン・データベース・アナリティクス
  • RDBによるトランザクション処理、NoSQLによる大規模処理、データウェアハウスなど、豊富なサービスのラインアップ
  • オンプレミスおよびホステッドプライベートクラウドの配備オプション
課題
  • IBMによるRDBのマネージドサービスはSQL Database (DB2)のみ
  • データセンターをまたぐ冗長化オプションがない
  • 日本のデータセンターは使用できない

【 SAP 】

アプリケーションサービス HANA Cloud Platform
データベースサービス HANA (インメモリー)
ASE (RDB)
概要 SAP HANAのインメモリーデータベースを中心として、RDBのASE(旧SybaseのAdaptive Server Enterprise)をデータベースサービスとして提供。
長所
  • SAP HANAのインメモリーデータベース機能
  • SAPのデータベースとの互換性
  • SAPのアプリケーションとの連携
課題
  • RDBのサービスはASEのみ
  • 一般的なNoSQLは提供されない
  • 画面やマニュアルの日本語化が遅れている
  • 日本のデータセンターは使用できない(2016年内に開設予定)

【 GE 】

アプリケーションサービス Predix
データベースサービス SQL Database (PostgreSQL)
Key Value Store (NoSQL)
Time-Series Store (時系列データベース)
概要 一般的なPostgreSQLによるRDB、redisによるNoSQL に加え、IoT向けの時系列データのためのデータベースサービスを提供。
長所
  • IoT向けのデータベース機能
  • 一般的なRDBとNoSQLのデータベースサービス
課題
  • 画面やマニュアルの日本語化が遅れている
  • データセンターの位置は公表されていない

【 Oracle 】

アプリケーションサービス Oracle Java Cloud Service

(OracleはJava Cloud Service以外にも、さまざまなPaaS/アプリケーションサービスを提供しているが、本稿では割愛する)

データベースサービス Oracle Database Cloud Service
概要 エンタープライズでよく利用されている実績の高いOracle Databaseをデータベースサービスとして提供する。
長所
  • Oracle Databaseとの互換性
  • 最新のOracle Databaseの機能が使える
  • Oracle Enterprise Editionが使える
  • Oracle RACが使える
  • オンプレミスへの配備オプション
課題
  • RDBのサービスはOracle Databaseのみ
  • 2016年10月時点でNoSQLのサービスはない(提供予定となっている)
  • 日本のデータセンターは使用できない