クラウド図鑑 Vol.77

2016年10月現在、クラウド市場のリーダーはAWSだと認識されているが、これは主にIaaS(Infrastructure  as a Service)のプロバイダーとしての評価であり、PaaS(Platform as a Service)に関して明確なリーダーは不在である。2016年3月24日に発表された「Magic Quadrant for Enterprise Application Platform as a Service, Worldwide」においては、SalesforceとMicrosoftがリーダーとされているが、数多くのプロバイダーが近い位置にいる。IDCが2015年12月に発表した「国内PaaS市場の2014年の分析と2019年までの予測によれば、2014年の国内PaaS市場規模は、前年比45.8%増の336億4,100万円で、クラウドアプリケーションプラットフォーム市場が232億2,400万円(前年比42.7%増)、クラウドデータサービス市場が71億3,700万円(前年比61.9%蔵)で、この2分野がPaaS市場全体の9割を占めている。ベンダーシェアはSalesforceが1位、AWSが2位、Microsoftが3位だった。IaaS市場はAWS、Microsoft、Google、IBMにの4社に収斂しつつある状況だが、PaaS市場では、この分野で有力とみられるOracleやSAPが近年になって本格参入し、各社にそれぞれ得意分野があり「使い分け」が必要である。さらに今後は、IoTにおけるGEのPredixのような特定分野に強いPaaSも増えると予想され、適材適所を考える必要があるだろう。

2016年10月19日
株式会社クラウディット 中井雅也

代表的なPaaSプロバイダーとその特性

本稿は、PaaSプロバイダーごとの特性や使い分けの参考資料になることを目的としており、前編ではアプリケーションサービスについてまとめた。

【 Salesforce 】

アプリケーションサービス Force.com, Heroku
開発言語 APEX (Force.com), Ruby,Node.js,Java,Pythonなど(Heroku)
概要 「Force.com」は高速開発型PaaSの代表で、「Heroku」はスケーラブル型PaaSの代表。この2つを提供することで、Salesforceは、従来型のITと新しいITの両方に対応し、PaaSのリーダーと位置づけられている。
長所
  • Force.comの独自開発言語APEX、Visualforceによる生産性の高い開発
  • Force.comのエンタープライズアプリケーションへの対応力
  • Herokuのクラウドネイティブなアプリケーションへの対応力
  • Herokuの容易かつ自動的な処理能力の拡張
  • Force.comは日本のデータセンターが使用できる
課題
  • Force.comは「ガバナ制限」と呼ばれる制約があり、大量アクセスや大容量データを扱うアプリケーションが制限を受ける
  • HerokuはAWSを基盤とするが日本のデータセンターは使用できない
  • Force.com, Heroku ともにオンプレミスへの配備オプションがない
推奨されるユースケース
  • 社内のビジネスアプリケーション(Force.com)
  • 社内のワークフロー(Force.com)
  • 高スケールのWeb/モバイルアプリ(Heroku)
  • 無数のユーザーにアクセスされるアプリ(Heroku)

【 AWS 】

アプリケーションサービス Elastic Beanstalk
開発言語 Java, Node.js, PHP, Python, Ruby, .NET
概要 開発したアプリケーションをアップロードするだけで、EC2の仮想マシンやストレージ、自動スケールなどAWSのサービスがプロビジョニングされるPaaS。
長所
  • AWSの各種サービスと緊密に統合されておりAWSの可用性や拡張性のメリットを継承する
  • 自動的な処理能力の拡張
  • AWSのIoTやビッグデータなどの多彩なサービスとの連携
  • 日本のデータセンターが使用できる
課題
  • 他PaaSに比較しインフラを意識する必要がある
  • オンプレミスへの配備オプションがない
推奨されるユースケース
  • ネット対応のビジネスアプリケーション
  • IoTやビッグデータなど新しいサービス
  • AWSを駆使したアプリケーション開発

【 Microsoft 】

アプリケーションサービス Azure App Service
開発言語 .NET, Node.js, PHP, Python, Javaなど
概要 Webアプリ開発の「Web Apps」、モバイル用の「Mobile Apps」、API開発の「API Apps」、アプリケーション連携と統合の「Logic Apps」を提供するPaaS。
長所
  • .NET/Windows系技術とオープンソース系技術を統合し、従来型のITと新しいITの両方に対応
  • 容易かつ自動的な処理能力の拡張
  • AzureのアナリティクスやIoTなどの多彩なサービスとの連携
  • 日本のデータセンターが使用できる
課題
  • ノンプログラミングや高速開発の開発環境なし
  • 機能や選択肢の多さからくる複雑さ
推奨されるユースケース
  • 既存の.NETアプリのクラウドへの移行
  • IoTやビッグデータなど新しいサービス
  • ハイブリッドクラウドの統合アプリ基盤の構築

【 Google 】

アプリケーションサービス Google App Engine
開発言語 Python, Java, PHP, Go, Ruby, Node.jsなど
概要 俊敏かつ自動的なスケールアウトにより特に大規模なアクセスが要求される処理に強く、170万のアプリケーションをホストしている実績のあるスケーラブル型PaaS。
長所
  • Googleのプラットフォームを活用した1 日最大 70 億リクエストのスケーラビリティ
  • 俊敏なスケールアウトによる処理能力の自動拡張
  • Googleのビッグデータ系サービスやAI系サービスとの連携による新しいITへの対応
  • CDNやmemcachedを標準装備
  • 2016年11月8日に東京リージョンの正式運用が発表された。
課題
  • エンタープライズアプリケーションへの対応力
  • 2016年10月時点で日本のデータセンターはベータという位置づけ
推奨されるユースケース
  • 高スケールのWeb/モバイルアプリ
  • 無数のユーザーにアクセスされるアプリ
  • IoTやビッグデータ、AI など新しいサービス

【 IBM 】

アプリケーションサービス Bluemix
開発言語 PHP, Java, Node.js, Python, Rubyなど
概要 Cloud Foundryをベースに、IBM系の技術とオープンソース系の技術を統合し、さまざまな開発言語と100種類以上のサービスが利用できる多機能なPaaS。
長所
  • IBM系技術とOSS系技術により、従来型のITと新しいITの両方に対応
  • 容易かつ自動的な処理能力の拡張
  • アナリティクスやIoT、Watsonなどの多彩なBluemixサービスとの連携
  • オンプレミスおよびホステッドプライベートクラウドの配備オプション
課題
  • データセンターをまたぐ冗長化オプションがない
  • 日本のデータセンターは使用できない
推奨されるユースケース
  • IoTやビッグデータなど新しいサービス
  • Watsonによるコグニティブコンピューティング
  • ハイブリッドクラウドの統合アプリ基盤の構築

【 SAP 】

アプリケーションサービス HANA Cloud Platform
開発言語 Java, Java Script, HTML5, XSなど
概要 Cloud Foundryをベースに、SAP HANAのインメモリーデータベース技術や高度な分析機能などをJavaやHTML5で開発したアプリケーションで利用できるPaaS。
長所
  • SAP HANAのインメモリーデータベース機能
  • 予測分析、テキスト分析などアナリティクス機能
  • SAPのアプリケーションとの連携
  • 従来型のITと新しいITの両方に対応
課題
  • 画面やマニュアルの日本語化が遅れている
  • 日本のデータセンターは使用できない(2016年内に開設予定)
推奨されるユースケース
  • HANAによるインメモリーコンピューティング
  • IoTやビッグデータなど新しいサービス
  • SAPアプリケーションの情報資産の有効活用

【 GE 】

アプリケーションサービス Predix
開発言語 Java, Node.js, Goなど
概要 Cloud Foundryをベースに、GEが培ってきたインダストリー向けのデータ管理、分析機能などをJavaなどで開発したアプリケーションで利用できるIoT特化型PaaS。
長所
  • インダストリー、IoT向けのデータ管理機能
  • インダストリー、IoT向けのアナリティクス機能
  • インダストリー、IoT向けのデバイス管理機能

    等

課題
  • 画面やマニュアルの日本語化が遅れている
  • データセンターの位置は公表されていない
推奨されるユースケース
  • 製造業、エネルギー分野、医療分野などにおけるIoTのデータ収集と活用

【 Oracle 】

アプリケーションサービス Oracle Java Cloud Service

(OracleはJava Cloud Service以外にも、さまざまなPaaS/アプリケーションサービスを提供しているが、本稿では割愛する)

開発言語 Java
概要 エンタープライズでよく利用されている実績の高いOracle Weblogicをそのままクラウドから提供するJavaアプリケーションのためのPaaS。
長所
  • Oracle Weblogicをそのままクラウドで利用可能
  • Coherenceのキャッシュで高速処理が可能
  • 容易かつ自動的な処理能力拡張
  • Oracleの製品やクラウドサービスとの連携
  • オンプレミスへの配備オプション
課題
  • 日本のデータセンターは使用できない
  • Oracleにロックインされる可能性がある
推奨されるユースケース
  • オンプレミスのWeblogic資産のクラウドへの移行
  • Oracle Database Cloud を前提とするアプリ開発
  • さまざまなOracle製品のデータをクラウドで活用

(参考) PaaSによるアプリケーションサービスのタイプ

PaaSはアプリケーションプログラムに対して、実行基盤であるミドルウェアおよびストレージやネットワークなどの仮想インフラを提供するクラウドサービスだ。現在の市場では、大別して2つのタイプがあり、1つめは汎用プログラミング言語(PHP、Java、Pythonなど)を実行するスケーラブルな実行基盤を提供するもの、2つめは専用の開発言語や開発環境による高速な開発を目的とするものだ。前者の代表はAWS Elastic Beanstalk、Google App Engine、Herokuなどで、後者の代表は Force.com、kintoneなどだ。ミドルウェアのサービスは、プログラミング言語の実行環境が中心だが、近年は、IoTのためのミドルウェアやアナリティクス、IBMのWatsonのようなコグニティブサービスなど多様化がすすんでいる。PaaSにおいては、一般的にインフラとミドルウェアの運用をプロバイダーが行うため、開発者は設計やプログラミングに専念できる。