クラウド図鑑 Vol.69
概要
Amazon Web Services (AWS) は、米Amazonが提供するクラウドコンピューティングサービスで、2006年のサービス開始から、今年で10年を超えているが、常にクラウドコンピューティングのマーケットとテクノロジーを牽引してきた。2016年8月時点での実績やシェアのデータは以下のとおり。
- 業績:
直近の2016年第2四半期(4~6月)の売上高は前年同期比58%増の28億8600万ドル、営業利益は同135%増の7億1800万ドルとなり、クラウド企業として初の年間売上100億ドルを突破するのは確実だと見られている - マーケットシェア:
米Synergy Research Groupは、世界クラウドインフラサービス市場調査において、2016年第2四半期の売上高を80億ドルと見積もっており、AWSのシェアは31%で1位を獲得し、2位のMicrosoftの11%に対して20ポイントほどリードしている米Synergy Research Groupによる2016年第3四半期におけるワールドワイドのクラウドのシェアの調査結果では、IaaSではAWSが首位でシェアは45%で、2位はMicrosoft、3位Google、4位IBM、また、PaaSにおいてもAWSはシェアトップで、2位はSalesforce.com、3位Microsoft、4位IBMとなっている
- Gartner の Magic Quadrant for Cloud Infrastructure as a Service:
1位のAWSと2位の Microsoft AzureがLeaderポジションで、他クラウドを引き離す結果となっている。Gartnerによれば、AWSは、最も豊富な機能を有し、円熟の域に達していながらも、革新的なソートリーダーであり、強力なエコシステムによる支援が得られる「安全な選択(Safe Choice)」と評している
GartnerのMagic Quadrantの評価のように、AWSがIaaS分野のリーダーであることに異論は少ないと思われるが、一方で、近年は上位機能を強化しており、PaaSとしてのAWSも、Salesforce、Microsoft、Googleなどに勝るとも劣らない状況だ。
AWS の Management Console
(クリックで拡大)
URL http://aws.amazon.com/jp/
2016年8月17日 株式会社クラウディット 中井雅也
機能
2016年8月現在、70種類以上の多様なIaaS機能、PaaS機能を提供する。基本的に全ての機能はコンソール操作またはAPIによって、即座に導入し、設定・起動・終了などの操作が可能で、従量課金方式で使っただけ課金される。AWSの進化のスピードは速く、2015年は700以上の新機能をリリースし。2016年も数多くの機能強化や、新ロードバランサーの追加などを行っている。このように継続的に追加される新機能と、高い可用性やセキュリティを実現する機能により、IoT、人工知能といった新しいITから、SAPのERPのようなエンタープライズの基幹業務まで、あらゆるユースケースに対応できる。
主要な機能について、もっとも近い機能を持つと思われるAzureとの対比も含めて以下の表で紹介する。
カテゴリー | サービス | AWS | Azure | コメント |
コンピュート | 仮想マシン | EC2 | Virtual Machines | 仮想マシンのデプロイとコントロール |
コンテナー | EC2 Container Service | Container Service | コンテナーのデプロイ、オーケストレーション | |
ストレージ | ブロックストレージ | EBS | Blob Storage (ページ) | 仮想マシンから利用するブロックストレージ |
オブジェクトストレージ | S3 | Blob Storage (ブロック) | アプリから利用するオブジェクトストレージ | |
ファイルサーバー/NAS | Elastic File System | File Storage | ファイル共有のサービス/NASのサービス | |
アーカイブストレージ | Glacier | – | アーカイブ用の低価格ストレージ | |
バックアップ/DR | – | Backup/Site Recovery | 仮想マシンのバックアップとディザスタリカバリー | |
ネットワーク | プライベートネットワーク | VPC | Virtual Network | オンプレミス接続の仮想プライベートネットワーク |
専用線接続 | Direct Connect | ExpressRoute | データセンターへの専用線接続 | |
ロードバランサー | Elastic Load Balancing | Load Balancer | 負荷分散/可用性向上のための負荷分散 | |
データベース | RDB | RDS (MySQL, PostgreSQL, Oracle, Aurora, SQL Server, MariaDB) |
SQL Database (MS SQL Serverベース) |
RDBのマネージドサービス |
NoSQL | DynamoDB | DocumentDB | NoSQLのマネージドサービス | |
DWH | Redshift | SQL Data Warehouse | 大規模並列処理’MPP)データベース | |
データ収集/変換 | Data Pipeline | Data Factory | データを収集・変換し統合する処理 | |
PaaS | アプリ開発/実行 | Elastic Beanstalk | App Service | アプリケーション開発と実行(PaaS) |
関数処理 | Lambda | Functions | サーバーサイドの関数処理 | |
API管理 | API Gateway | API Management | APIの登録、公開、モニタリングなど | |
モバイルアプリ | Mobile Hub | Mobile Apps | モバイルアプリの開発 | |
データ分析 | Hadoop | Elastic Map Reduce | HDInsight | Hadoopのマネージドサービス |
機械学習 | Machine Learning | Machine Learning | 機械学習のマネージドサービス | |
リアルタイム分析 | Kinesis | Stream Analytics | 大規模データのストリーム処理 | |
IoT | IoTサービス | AWS IoT | IoT Suite | IoTデバイスの接続/管理など |
コンテンツ | CDN | Cloud Front | CDN | コンテンツ配信ネットワーク |
メディア配信 | Elastic Transcoder | Media Service | ビデオ、オーディオのオンデマンド配信 |
各種機能の詳細は過去の記事を参考にしていただきたい。
- AWSのストレージサービス
- AWSのデータベースサービス
- Amazon Aurora
- AWS Elastic Beanstalk
- AWSのビッグデータサービス
- AWSの機械学習サービス
- AWS の IoT サービス
使いやすさ
日本語対応の Management Console で各種サービスの設定や構成を行うことができる。またAPIによって、プログラムからの操作ができる。総じて数あるクラウドの中でもコンソールは使いやすいほうだと思われる。
しかしながら、AWSの多機能・高機能のサービスを使いこなすには独自の設計思想や用語の習得を含めて、知識やノウハウが必要である。この知識やノウハウがAWSおよびパートナーのエコシステムに蓄積されているのがAWSの強みであり、初めてAWSを導入する際には、AWSやパートナーのコンサルティングやトレーニング、コミュニティのイベント、勉強会などを活用すればよい。
マニュアルや書籍など
主要なドキュメントは日本語化されており、日本語の書籍なども出版されている。現時点での情報量は他クラウドよりも多いと考えられる。
AWSの強みは、クラウド業界で最大級のエコシステムによるネット上の情報量の多さであり、コミュニティの技術者によって続々と追加される新機能の情報や検証結果などが迅速にネット上で共有されるのはありがたい。
拡張性
仮想マシン「EC2」は、CPU数、メモリーなどのバリエーションが豊富で、単体で32以上のCPU、200GB以上のメモリーが使える巨大なインスタンスがあり、また、高度な並列処理が必要なアプリにはNVIDIAのGPUを搭載したインスタンスも使える。一方で、ロードバランサー「ELB」と自動スケール「Auto Scaling」によって、水平なスケーリングによる大規模処理が可能。オブジェクトストレージ「S3」のデータ容量は無制限で、全体で1秒あたり100万リクエストを処理しており、AWSにITインフラを委ねるNetflixのように大規模データを格納している事例も数多い。また、データベースサービス「RDS」や、サーバーレスのコンピューティングサービスの「Lambda」などのマネージドサービスでは利用者が意識することなくスケーリングが自動で行われる。
可用性
データセンターのアーキテクチャも含めて、障害は起こるもの、とする”Design for Failure”の考え方で可用性を高める機能が多く用意されている。AWSは東京も含めたグローバルのリージョンで運用され、各リージョンは複数のデータセンター群で構成される。このデータセンターを「Availability Zone(AZ)」という考え方で、高速な専用線で接続し複数組み合わせることで高可用性を実現できる。AZは地理的、電源的、ネットワーク的に分離され、地震や洪水なども考慮されており、単一のデータセンターが被災しても他には影響しない。
仮想マシン:
単体のEC2インスタンスについては、「Auto Recovery」の機能により、ネットワーク、電源、物理ホスト上のソフトウェア、ハードウェアを監視し、問題があれば新しいハードウェア上で再起動する。水平にスケールしやすいWebサーバー、アプリケーションサーバーなどは、インスタンスを別AZに配置し、ロードバランサー「ELB」でリクエストを振り分けて可用性を高めることができる。
ストレージ:
仮想マシンのストレージ「EBS」のデータは、同じデータセンター内の複数のサーバーに複製される。スナップショットをコピーすることでデータセンターをまたいだボリューム複製が可能。オブジェクトストレージサービスの「S3」は、デフォルトで3つのデータセンターにデータを自動的に分散保存し99.999999999%というデータ耐久性を実現している。
データベース:
RDBのマネージドサービス「RDS」では、Multi-AZ配置により別データセンターに配備したレプリカへのフェールオーバーが可能で、最大35日間の自動バックアップ機能を提供する。さらに可用性を強化した「Aurora」データベースエンジンでは、インスタンスに障害が発生した場合、3つのデータセンター群に配置した最大 15 個のレプリカのうちの 1 つから通常1分以内に自動でフェイルオーバーし、データは3つのAZごとに2つのコピーを持ち、合計6ヶ所のSSDストレージにデータを保持する。
SLA
仮想マシン「EC2」のSLAは99.95%。オブジェクトストレージ「S3」のSLAは99.9%。RDBのマネージドサービス「RDS」は99.95%。
自動化機能
各種サービスをAPIでコントロールできる。またCloud Formationという管理タスクの自動化支援サービスも提供されている。
セキュリティ
「共有責任モデル」により、AWSと利用者の2者で分担してセキュリティを確保するという考え方で、AWSはファシリティ、ネットワーク、物理セキュリティ、仮想インフラ、物理インフラに責任を持ち、OSから上のレイヤーは利用者の責任となる。AWSのインフラは、最新の電子監視システムや多要素アクセス制御システムを搭載し、訓練を受けた監視スタッフが24時間体制で配備されたデータセンター内にある。SOC 1, 2, 3、および、ISO 27001、ISO 27018、HIPPA、FedRAMP、FISMA、PCIDSS、FIPS 140-2などのグローバルセキュリティ基準に対応。日本の金融機関のシステム構築の指針となるFISC安全対策基準への取り組み状況も公開している。AWSは基本的には仮想化環境のリソース共有型のクラウドであるが、仮想マシンを専有イメージで利用するDedicated Hostおよびハードウェア専有インスタンス、オンプレミスのネットワークの拡張として使える仮想的プライベートネットワーク環境「VPC」でリソースを論理的に隔離することもできる。
データセンターの場所
通常のAWSアカウントでは東京リージョンを含むグローバル11リージョンから場所を指定することができる。各リージョンで均一のサービスを目指しているが展開の時差があり、最新のサービスは米国のリージョンで先行することも多く、日本の利用者が好む東京リージョンで使用可能かどうかチェックする必要がある。
実績・シェアなど
月間100万以上のアクティブな顧客に利用されている。AWS自体がアマゾンのシステムの基盤となっており、同様に迅速でスケーラブルなITインフラを必要とする Netflix、Salesforce、Dropbox、Box、Twillio、Slack、Rescale、Splunk などが利用している。国内企業でも、NTTドコモなど20000社以上が利用しており、近年では、ソニー銀行や東京海上日動火災保険などの金融系、トヨタ自動車やニコンなどの製造業など国内のエンタープライズでの利用も拡大している。AWSのWebで数多くの事例が公開されている。
エコシステム
クラウド業界で最大級のエコシステムを持つ。製品系では、オープンソース系やアナリティクスやIoTなど新興系のベンダーはもちろんだが、オラクルやSAPのようなエンタープライズ系のベンダーもAWSを積極的にサポートする。大手ITベンダーやシステムインテグレーター、AWS専業のクラウドインテグレーターなど数多くがAWSに対応し、国内だけでもパートナーが100社以上ある。また、開発者のコミュニティが日本全国に広がっており、各地でのイベントなどが活発に開催され盛況である。
価格および支払い方法
基本的に全てのサービスが従量課金である。データ転送も課金され、処理時間や処理回数など、さまざまな課金方式により、全体的に料金体系は複雑である。1年または3年間の契約リザーブドインスタンスによる割引がある。価格はサービスごと、またリージョンによっても異なるが、基本的にUSドルでのクレジットカード決済となる。
参考価格としては、EC2のエントリーレベルの t2.microインスタンス (1VCPU/1GBメモリー)で東京リージョンの場合$0.020/1 時間。
1年間使える無料利用枠が用意されており数多く提供されている機能を試しやすい。
Comments are closed.