クラウド図鑑 Vol.61
概要
2016年6月現在、クラウドコンピューティングの市場のリーダーは AWS であり、これを Microsoft , Google , IBM などが追いかけていることは周知のとおりである。特に、この1年の間に AWS は、IaaSの優位性はそのままに、アナリティクスやAI、IoTなどの上位レイヤーの機能を大幅に強化した。一方のMicrosoft も、ナデラCEOの “Microsoft loves linux” のダイレクションとともに、Azureにオープンソース技術を大胆に取り込み、以前のWindows寄りのイメージを払拭しオープンソース技術者の支持を集めるようになった。両社の機能拡張の競争の結果、 AWS と Azure は、むしろ、機能面では共通点が多くなってきている。これは、次項の「機能」の対比表を見ていただきたい。 おそらく、両クラウドの選択基準としては、「クラウドのリーダーとしての安心感とエコシステム」の強みがあるAWSにするか、後述するような東西のデータセンターの地理的な分散や、きめ細かなSLAや日本の法律を準拠法とするAzureにするか、といったポイントになるだろう。
URL http://aws.amazon.com/jp/
https://azure.microsoft.com/ja-jp/
2016年6月15日 株式会社クラウディット 中井雅也
関連記事 Google Cloud と AWS の比較
機能
両クラウドの主要機能のマトリックスを作成して対比してみた。ここからわかるのは、両クラウドは、むしろよく似た機能を提供しているということである。
カテゴリー | サービス | AWS | Azure | コメント |
コンピュート | 仮想マシン | EC2 | Virtual Machines | 仮想マシンのデプロイとコントロール |
コンテナー | EC2 Container Service | Container Service | コンテナーのデプロイ、オーケストレーション | |
ストレージ | ブロックストレージ | EBS | Blob Storage (ページ) | 仮想マシンから利用するブロックストレージ |
オブジェクトストレージ | S3 | Blob Storage (ブロック) | アプリから利用するオブジェクトストレージ | |
ファイルサーバー/NAS | Elastic File System | File Storage | ファイル共有のサービス/NASのサービス | |
アーカイブストレージ | Glacier | – | アーカイブ用の低価格ストレージ | |
バックアップ/DR | – | Backup/Site Recovery | 仮想マシンのバックアップとディザスタリカバリー | |
ネットワーク | プライベートネットワーク | VPC | Virtual Network | オンプレミス接続の仮想プライベートネットワーク |
専用線接続 | Direct Connect | ExpressRoute | データセンターへの専用線接続 | |
ロードバランサー | Elastic Load Balancing | Load Balancer | 負荷分散/可用性向上のための負荷分散 | |
データベース | RDB | RDS (MySQL, PostgreSQL, Oracle, Aurora, SQL Server, MariaDB) |
SQL Database (MS SQL Serverベース) |
RDBのマネージドサービス |
NoSQL | DynamoDB | DocumentDB | NoSQLのマネージドサービス | |
DWH | Redshift | SQL Data Warehouse | 大規模並列処理’MPP)データベース | |
データ収集/変換 | Data Pipeline | Data Factory | データを収集・変換し統合する処理 | |
PaaS | アプリ開発/実行 | Elastic Beanstalk | App Service | アプリケーション開発と実行(PaaS) |
関数処理 | Lambda | Functions | サーバーサイドの関数処理 | |
API管理 | API Gateway | API Management | APIの登録、公開、モニタリングなど | |
モバイルアプリ | Mobile Hub | Mobile Apps | モバイルアプリの開発 | |
データ分析 | Hadoop | Elastic Map Reduce | HDInsight | Hadoopのマネージドサービス |
機械学習 | Machine Learning | Machine Learning | 機械学習のマネージドサービス | |
リアルタイム分析 | Kinesis | Stream Analytics | 大規模データのストリーム処理 | |
IoT | IoTサービス | AWS IoT | IoT Suite | IoTデバイスの接続/管理など |
コンテンツ | CDN | Cloud Front | CDN | コンテンツ配信ネットワーク |
メディア配信 | Elastic Transcoder | Media Service | ビデオ、オーディオのオンデマンド配信 |
各種機能の詳細は過去の記事を参考にしていただきたい。
- AWSのストレージサービス
- Azureのストレージサービス
- AWSのデータベースサービス
- Amazon Aurora
- Azureのデータベースサービス
- Azure App Service
- AWS Elastic Beanstalk
- AWSのビッグデータサービス
- Azureのビッグデータサービス
- AWSの機械学習サービス
- Azureの機械学習サービス
- AWS の IoT サービス
- AzureのIoTサービス
使いやすさ
AWS, Azure ともに、日本語のコンソール/ポータルから各種サービスの設定や構成を行うことができる。またAPIによって、プログラムからの操作ができる。総じてAWS、Azureともに数あるクラウドの中ではコンソールが使いやすい。
マニュアルや書籍など
AWS、Azureともに、主要なドキュメントは日本語化されており、日本語の書籍なども出版されている。またネットでの情報も多いので、総じてAWS、Azureともに数あるクラウドの中では日本語ドキュメントや資料が整備されているクラウドだと言えるだろう。
拡張性
AWS、Azureともに、仮想マシン単体で、32以上のvCPU、200GB以上のメモリーの巨大なインスタンスが用意されており垂直なスケールができる。もちろん、ロードバランサーとオートスケールの機能によって、クラウドらしい水平なスケーリングが可能。総じてAWS、Azureともに豊富なリソースと高い拡張性を持っている。
可用性
ストレージ:
AWSでは、仮想マシンのストレージのデータは、同じデータセンター内の複数のサーバーに複製される。スナップショットをコピーすることでデータセンターをまたいだボリューム複製が可能。オブジェクトストレージサービスのS3は、デフォルトで3つのデータセンターにデータを分散して保存し99.999999999%というデータ耐久性を実現。
Azureでは、「ローカル冗長ストレージ (LRS)」による、 1 つのリージョンの 1 つの施設内で 3 つのデータ複製、「ゾーン冗長ストレージ (ZRS)」によるデータセンターをまたいだ 3 つのデータ複製、「geo 冗長ストレージ (GRS)」による、地理的に離れたリージョンをまたいだ 3 つの複製によるデータ保護が可能。
仮想マシン:
Azureでは、仮想マシンのバックアップサービスであるAzure Backupとディザスタリカバリー(レプリケーションとフェールオーバー)のサービスであるAzure Site Recoveryを提供している。これはAWSでは提供されてない機能である。
データベース:
AWS、Azureともに、RDBのマネージドサービスでは、別データセンターに配備したレプリカへのフェールオーバーが可能で、最大35日間の自動バックアップ機能を提供する。
さらに可用性を強化したAWSのAuroraデータベースエンジンでは、インスタンスに障害が発生した場合、3つのデータセンター群に配置した最大 15 個のレプリカのうちの 1 つから通常1分以内に自動でフェイルオーバーし、データは3つのAZごとに2つのデータのコピーを持ち、合計6ヶ所のSSDストレージにデータコピーを保持する。
AzureのSQL Databaseでは、Geoレプリケーションによるリモートレプリケーションが可能。また、オンプレミスのSQL Serverを、Azureでフェールオーバーすることができる。
SLA
AWS、Azureともに、仮想マシンのSLAは99.95%、オブジェクトストレージのSLAは99.9%。RDBのマネージドサービスに関しては、AWSは99.95%で、Azureは99.99%。Azureでは、PaaSのApp ServiceやMachine Learningでも99.95%のSLAを規定するなど、より多くのサービスにおいてSLAを規定している。
自動化機能
AWS、Azureともに、各種サービスをAPIでコントロールできる。またAWSにおいてはCloud Formation、AzureにおいてはAutomationといった管理タスクの自動化支援サービスも提供されている。
セキュリティ
AWS、Azureともに、コンプライアンス基準、セキュリティ基準、規制対応に関しては、ISO27001、HIPPA、FedRAMP、FISMA、PCIDSS、FIPS 140-2に対応している。AWSは、SOC レベル1, 2, 3に対応、Azureは,SOC レベル1,2に対応 。Azure は、ISO 27018 に対応している。また、AWS、Azureともに、SOC 1, 2, 3 および ISO27018に対応している。また、AWSは米国ワシントン州法を準拠法とし、管轄裁判所もワシントンとなるが、Azureは、日本の法律を準拠法とし、管轄裁判所は東京地方裁判所である。
データセンターの場所
AWSは、グローバルで12リージョン、日本で1リージョン。Azureは、グローバルで20リージョン、日本で2リージョン。Azureでは、日本国内で東西のディザスタリカバリー環境を実現できる。
実績・シェアなど
AWSの最新の業績発表(2016年4月28日)では、四半期の売上が約25億ドル。Microsoftの最新の業績発表(2016年4月21日)では、コマーシャルクラウドの年間売上が100億ドルに達する見込みだという。つまり、四半期あたりの売上では、AWSとほぼ同額(約25億ドル)になるが、コマーシャルクラウドの中でAzureは一部であり、内訳は公表されていないため、比較が難しい。AWSのアクティブカスタマーの数はグローバルで100万とのことである。
エコシステム
AWSの国内パートナー社数は300とのことであるが、個人レベルの開発者やユーザー企業を取り込み、IT業界でも有数の強大なエコシステムを形成しているのは間違いない。Microsoftも従来のWindowsのパートナーに加えて、Azureの積極的なオープンソース対応により、オープンソース技術者を取り込んで、AWSをキャッチアップしようとしている。
価格および支払い方法
個別の価格はここでは割愛する。支払い方法に関してはAWSは基本的にUSドルでのクレジットカード決済となり、日本円やクレジットカード以外の支払いはパートナーが対応。Azureは、基本的に日本円で、クレジットカード決済となり、クレジットカード以外の支払いはパートナーが対応。
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