シリコンバレーの日本企業が陥る、10のワーストプラクティス

シリコンバレーの日本企業が陥る、10のワーストプラクティス

シリコンバレーの日本企業が陥る、10のワーストプラクティス

世界はシリコンバレーブームに沸いている。あらゆる業界の企業が調査や新規事業開発のため、シリコンバレーに拠点を開設している。日本企業も同様だ。シリコンバレーに進出した日本企業数は過去最大を記録。日本企業のミッションの多くは、シリコンバレーの調査、スタートアップとのコラボレーションの実現である。しかし実際のところ、その試みはうまくいっているのだろうか。日本企業はシリコンバレーに貢献し、その存在感は高まっているのだろうか。前回の記事でシリコンバレーのエコシステムを解説したスタンフォード大学の櫛田氏が、日本企業に共通する課題点を指摘する。
櫛田 健児
研究員
1978年生まれ、東京育ち。2001年6月にスタンフォード大学経済学部東アジア研究学部卒業(学士)、2003年6月にスタンフォード大学東アジア研究部修士課程修了、2010年8月にカリフォルニア大学バークレー校政治学部博士課程修了。情報産業や政治経済を研究。現在はスタンフォード大学アジア太平洋研究所研究員、「Stanford Silicon Valley – New Japan Project」(http://www.stanford-svnj.org/)のプロジェクトリーダーを務める。おもな著書に『シリコンバレー発 アルゴリズム革命の衝撃』(朝日新聞出版)、『バイカルチャーと日本人 英語力プラスαを探る』(中公新書ラクレ)、『インターナショナルスクールの世界(入門改訂版)』(アマゾンキンドル電子書籍)がある。

なぜ日本はシリコンバレーのエコシステムに入り込めないのか

―近年、シリコンバレーに進出する日本企業が増えています。櫛田さんは日本企業には共通して直面する課題があると指摘していますね。

 私はシリコンバレーに来て、20年近くになります。昔から日本企業は存在はしていましたが、そのほとんどはコアなエコシステムに入り込めていません。それはなぜで、どうすれば改善できるのかを解き明かすのが、私のテーマの一つです。

私はこれまでシリコンバレーで数多くの日本の組織を見てきました。そして本社の方や駐在員の方と議論していく中で、共通して抱えている課題が多いことに気づいたんです。業種にかかわらず、大企業や政府系機関は同じ問題に直面しがちです。

―それが「日本企業の陥る10のワーストプラクティス」ですね(下表)。そもそも日本企業は何を求めてシリコンバレーにやってきているのでしょうか。

 もともと日本企業は半導体の業種を中心に、シリコンバレーの企業と競争するために来ました。半導体の原料であるシリコンの聖地、シリコンバレーに。当初は現在のような調査や研究開発の拠点という位置づけではなかったんですね。それから日本経済がスローダウンして不況に入っていった一方で、アメリカはシリコンバレーを中心に元気になっていた。コンピューター産業を中心に、アメリカの競争力が一気に高まっていったわけです。

そういった背景もあり、ここ15年ほど、日本企業は何か新しいビジネスを作るためにシリコンバレーに来ています。シリコンバレーを中心にアメリカ経済が大きく伸びたので、日本のビジネスを持ち込むのではなく、シリコンバレーで何か開発したり、またその動向を調査しようとしています。

ただ、残念ながらその目的意識はあまりはっきりしていないところが多いのです。とりあえず何かの研究開発のシーズを探してこよう、何とかシリコンバレーの波に乗らなければいけない。そのためにCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)を作ったり、VC(ベンチャーキャピタル)へ投資をしてLP(リミテッドパートナー)になったり、とりあえず事業所を作って情報収集をする。こういった動きが最近は圧倒的に多いですね。

日本企業は「テイク」ばかりで「ギブ」がない

―シリコンバレーにおいて日本企業の存在感は高まっているのでしょうか。

 いろいろな日本企業がシリコンバレーでうろうろしているという意味では、そうかもしれません。しかし、シリコンバレーのエコシステムに貢献しているという意味では、その存在感はまだ非常に小さい。うろうろしているだけで、実際のビジネスにつながっていないケースが多いんです。

実はいま日本企業が一つ、困った問題を引き起こしています。それは情報収集のミッションを持ったプレイヤーが多すぎるということです。シリコンバレーのスタートアップや大手企業に、日本企業からのアポイントが殺到しているのです。

あるFintechのスタートアップは、日本企業から年間100件以上のアポイント打診が来たそうです。100件以上ですよ。ほとんどの日本企業側のミッションは、有望そうなFintechのスタートアップからヒアリングし、そこで得た情報を日本本社に送ることです。単なる情報収集が目的なので、ほとんど何のビジネスにもつながりません。

―スタートアップにとっては迷惑な話ですね。

 実際、100社の面談依頼を受けたFintechは、そのアポイントをずいぶんこなしたにもかかわらず、全く成果につながらなかった。これはスタートアップにとって大問題です。スタートアップは少数精鋭でやっているところが多いのです。なるべく自分の働く時間を確保して、急成長をしなくてはいけない。投資家も成長のプレッシャーをかけている。そんな中、スタートアップとしては日本の大手企業を顧客にできればアメリカ国内でも存在感が高まって、アメリカ企業の顧客も増えるかもしれないと期待しています。しかしその期待には全く応えてもらえない。なぜなら、これらの日本企業は情報収集だけが目的だからです。

こういった現象は、ここ数年のシリコンバレーブームで相当増えています。日本企業は面談に来ても、情報のギブアンドテイクがない。テイクに来るだけでギブがない。じゃあ会う必要ないよねと、日本企業には会わないというスタートアップは増えています。これはスタートアップにとって迷惑なだけでなく、本当にビジネスをしたい日本企業の妨げにもなっています。

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