クラウド図鑑 Vol.44
IBM Watsonは、「人工知能/AI」あるいは「機械学習」に分類されることもあるが、IBMはWatsonを、自然言語による質問を理解し、回答を学習し人間の意思決定を支援する「コグニティブ・コンピューティング・システム(Cognitive Computing System)」と定義している。この中で「機械学習/AI」は、要素技術のひとつであり、インテリジェントな判断のためのインタフェースとして自然言語を使って質問をして学習した知識ベースから適切な回答を返す自動応答システムという形が基本である。2011年に米国の人気クイズ番組「ジェバディ!」では、10台のラックに2880個のPOWERプロセッサを搭載し、2億ページ相当の情報を取り込んだWatsonが、人間と対戦して勝利し、一躍有名になった。IBM Bluemix は、2014年7月の正式リリース以前から、Watsonのサービスを取り込んでおり、2016年1月の現時点では、17種類のWatson関連サービスをアプリから簡単に利用できるようにしている。
IBM BluemixのWatson設定画面例
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URL http://www.ibm.com/cloud-computing/jp/ja/bluemix/
2016年1月27日 株式会社クラウディット 中井雅也
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機能
2016年1月現在で、以下のような17のWatson機能を、Bluemixのサービスとして提供している。
- AlchemyAPI (IBM) 画像認識/解析、自然言語解析、ニュース/ブログ解析など
- Concept Expansion (IBM) 婉曲表現/俗称を一般語句にマップする。現在ベータ
- Concept Insights (IBM) 入力内容の背後にある概念を探索する。
- Dialog (IBM) アプリケーションがユーザーと自然言語で対話できるようにする。
- Document Conversion (IBM) HTML, PDFなどを正規化されたテキストやJSON形式のAnswerユニットセットに変換。
- Language Translation (IBM) テキストをある言語から他の言語に翻訳。
- Natural Language Classifier (IBM) 質問テキストに対して自然言語の分類を実行。
- Personality Insights (IBM) データから個人の性格に関して洞察し特性を識別。
- RelationshipExtraction (IBM) 文章の主語、述語、動詞などから関連性を発見。現在ベータ。
- Retrieve And Rank (IBM) 機械学習アルゴリズムにより最も関連性がある情報検索。
- Speech To Text (IBM) 音声をテキストに変換。
- Text To Speech (IBM) テキストから音声を合成。
- Tradeoff Analytics (IBM) 対立する複数の目標に対して、より良い選択を行う。
- Visual Recognition (IBM) 画像や動画を認識・分析しラベル付けを行う。現在ベータ。
- Cognitive Commerce (CognitiveScale) 機械学習によるレコメンデーション。
- CognitiveGraph (CognitiveScale) 機械学習を応用したグラフ、視覚化。
- Cognitive Insights (CognitiveScale) 機械学習による洞察、予測分析。
どのサービスもREST APIで呼び出して利用する。テキストや画像、音声といったデータをインプットとして渡すと、各サービスに応じたアウトプットを受け取る。Node.jsやJavaなどのプログラミング言語を使用し、結果はJSON形式で返る。Watsonの処理の本体はBluemixではなく、Watson Developer Cloudで行われる。このため知識ベース(Corpus : コーパス) を新たに作成、あるいは拡張する必要がある場合にはバックエンドのWatsonに対して「Experience Manager」を使用して、テキスト、HTML、PDFなどのデータを取り込み、学習させる必要がある。これはBlumixの範囲外の作業となる。2016年1月現在、コーパスは日本語に対応していない。2016年2月に、IBMとソフトバンクにより、IBM Watson日本語版が提供開始された。Natural Language Classifier, Dialog, Retrieve and Rank, Document Conversion, Speech to Text, Text to Speech の6種類が日本語化された。
使いやすさ
数多くのサービスが日本語化されたBluemixのコンソールに統合されており、グラフィカルに設定・操作が可能。BluemixのベースとなっているPaaSソフトウェア「Cloud Foundry」のアーキテクチャにより、各サービスは一貫性のある「バインド」という操作でアプリから接続ができる。ただし、各サービスの内部は英語の画面があったり操作性も統一されていない。開発は、ローカル環境からコマンドライン使用(cfツール)、Git CLIでのデプロイ、Bluemix DevOps ServiceによるWeb IDEを使用するなどの方法に加えて、プラグインによって人気の高い統合開発環境のEclipseと連携が可能。Watsonのサービスを呼び出すアプリは、Node.jsやJavaなどに加えて、IBMのビジュアル開発環境「Node-RED」を使えば簡単なアプリなら1時間もかからずに作成できる。
マニュアルや書籍など
ドキュメントは日本語化されているものも多い。IBM Developer Worksからチュートリアルが提供されている上にGitHubから多くのサンプルを提供している。
拡張性
Bluemixでは、アプリに対してメモリーやCPUコアを追加することができる。またAuto-Scalingアドオンにより、CPUやメモリーなどの状況により、アプリケーションを自動的にスケールアウトして処理能力を拡張できる。
可用性
Blumixのアプリ同様に、アプリのスケールアウトによる冗長化が可能。ただし、現時点ではデータセンターをまたがる冗長化のオプションは提供されていない。
SLA
2016年1月時点でBluemix全体のSLAが定義されていない。2016年11月の最新のSLAドキュメントでは、Bluemix Publicを複数リージョンで分散配置した場合かBluemix Dedicated、Bluemix Localを地理的に離れたデータセンターに分散配置した場合でPlatform Serviceに対して99.95%の可用性を、単一の環境にBluemix Dedicated、Bluemix Localを配置した場合で99.5%の可用性をサービスレベルとして規定し、これに達しない場合は使用料金が割り引かれる。ただしIBMはSLAをよく変更するので(2016年だけで3バージョンある)、最新のSLAを確認する必要がある。
自動化機能
全てのWatsonサービスはAPIで利用する。マネージドサービスとして提供されており、管理はIBMによって行われ運用タスクも自動化される。
セキュリティ
Bluemixは、パブリックのマルチテナントのPaaSだけでなく、パブリックのシングルテナントのPaaS「Bluemix Dedicated」、さらにオンプレミスの「Bluemix Local」のオプションがあるため、厳しいセキュリティの要件にもあわせることができる。
データセンターの場所
マルチテナントのパブリックPaaSとしてのBluemixは米国、イギリス、シドニーのデータセンターからの提供となる。ただし、利用できるサービスがリージョンによって異なるので、現時点では米国を選択するのが無難である。シングルテナントのBluemix DedicatedではSoftLayerの東京データセンターも選択できる。オンプレミスのBluemix Localは、当然だが任意のデータセンターで稼働させることができる。
実績・シェアなど
2016年1月時点でBluemixとの組み合わせのWatson事例は公開されていない。IBM Watsonとしては、タイのバムルンラート病院、南アフリカのメトロポリタン・ヘルス、オーストラリアのANZグローバルウェルスとディーキン大学、スペインのカイシャバンクなど。日本では、三井住友銀行がコールセンターでのWatson採用を発表している。
エコシステム
IBM Watsonに関しては、日本ではソフトバンクとCTCが積極的に展開している。ソフトバンクは、Watsonの日本語対応やエコシステムプログラムなどを日本IBMと共同で展開している。
価格および支払い方法
Watsonサービスは、AlchemyAPIは1日1000イベントまでは無料、Concept Insightsは毎月25000回のAPI呼び出しまでは無料、それ以上は0.21円/API呼び出し、Dialogは毎月1000回のAPI呼び出しまでは無料、それ以上は2円/API呼び出し、Document Conversionは毎月最初の100MBまでは無料、それ以上は5.25円/MB、Language Translationは最初の100万文字は無料で、それ以上は2.1円/1000文字、Natural Language Classifierは1インスタンス、初期の1000回までのAPI呼び出し、4トレーニングイベントまでは無料で、それ以上は2100円/インスタンス/月に加えて0.3675円/API呼び出し、315円/トレーニングイベント、Personality Insightsは毎月最初の100回の呼び出しは無料で、それ以上は21円/API呼び出し、など。他サービスはBluemixサイトで確認を。
Bluemixのアプリも、無料枠が用意されており、枠を超えると主に使用メモリーと利用時間に応じて費用が発生する。おおまかに、およそ512MBメモリーのインスタンスの月間あたり750時間の使用が無料枠の範囲であり、それを超えると1GBメモリーあたり7.35円/時間で課金される。
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