クラウド図鑑 Vol.36

本記事にはアップデート版(2017年6月)があります

GE (General Electric / ゼネラル・エレクトリック) は、世界最大のコングロマリットであり、1892年の設立当初は電気機器から事業を始めたが、現在は航空機エンジン、医療機器、発電/送電機器など多分野においてビジネスを展開している。GEは、2015年8月に、IoT(Internet of Things:モノのンターネット)と産業用途に特化したクラウドサービス「Predix Cloud」を2016年から提供すると発表した。GEは、これを世界初で唯一の産業データ分析のPaaS (Platform as a Service) だとしている。ここに至るまで、GEは2012年11月に、産業機器とITを融合する「インダストリアル・インターネット(Industorial Internet)」のコンセプトを打ち立て、経営戦略の中核に据え、シリコンバレーに研究所を開設するなど、3年間で10億ドルをインダストリアル・インターネット関連技術に投資するとした。2013年4月には、EMCグループのソフトウェアベンダー「Pivotal」に出資した。2014年3月にはIoTの団体、「The Industrial Internet Consortium」を組織化し、創設メンバーは、GE、AT&T、Cisco、Intel、IBMの5社だったが、現在は、富士通や日立製作所などの日本企業を含め200社以上が加盟する。2014年10月には、ソフトウェアプラットフォーム「Predix」を2015年に提供する予定だと発表した。また、Predix上にはPivotalと共同開発した「data lake」というデータを収集・蓄積・分析するデータベース機能があり、その上で「Predictivity solutions」という、ジェットエンジンや、医療機器、鉄道車両など産業向けアプリケーション群を稼働させるという。Predix Cloudは2016年の提供で、現時点では全貌が明らかではないが、開発者用のポータル「Predix.io」では、後述するような様々なソフトウェアの情報が提供されている。GEは、インダストリアル・インターネットの効果について、「Power of 1%」という言葉を用いて、「当社の顧客のすべてが、資産(Asset)の効率を1%改善できれば、顧客は年間利益を200億ドル(日本円で2兆円以上)増やすことが可能だ。」としており、「APM(Asset Performance Management:アセットパフォーマンス管理)」によって設備や機器の資産の効率性を高め、予期しないダウンタイムを最小にできるという。GEは、2014年の時点で、既に、140万の医療機器と2万8000基のジェットエンジンを含む総額1兆ドルの設備や機器に対し、1000万のセンサーを取り付け、日々5000万件のデータを収集し、分析している。今後、GEは自社ソフトウェアと分析技術を2015年第4四半期からPredixクラウドへマイグレーションを開始する。なお、GEはソフトウェア事業を伸ばしており、2015年9月には、ソフトの売上高を2020年までに15年見通しの3倍の150億ドル(約1兆8000億円)以上に引き上げる方針を示した。

Dave Bartlett (CTO for GE Aviation) の動画 (英語)

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URL  http://predix.com/
2015年12月3日 株式会社クラウディット 中井雅也
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機能

Predix Cloud の実体はPaaS (Platform as a Service)であり、PivotalのPaaSソフトウェア「Cloud Foundry」をベースとする。したがって、アプリケーション開発を第一の機能として、IoTによって生まれるビッグデータの分析機能やデータを収集・蓄積する機能、デバイスを接続する機能などを提供する。アプリ開発については、Predix CloudのベースとなっているPivotalのPaaSソフトウェア「Cloud Foundry」のアーキテクチャを踏襲しており、Java、Node.js、Goなどのプログラミング言語とフレームワークによりアプリを開発し、これにアプリから呼び出されるデータベースなどの「サービス(Cloud Foundryの用語)」を選択し組み合わせていく。現時点で開発者用のポータル「Predix.io」で確認できる主なサービスとして、以下のようなものがある(なお、これらはPredix Cloudの正式提供の前のものであり、増減や変更の可能性もある)。「データマネジメントサービス」のカテゴリーに、「SQL Database(PostgreSQL)」、時系列データを効率的に扱うカラムナーデータベースの「Time-Series Store」、Amazon S3互換のオブジェクトストレージ「Object Store」、NoSQLの「Key Value Store (redis) 」、高速なメッセージ通信のための「Message Queue (Rabbit MQ)」など。「分析サービス」のカテゴリーに、機器の予期しないダウンを予測・防止する「GE SmartSignal」、位置情報の処理をする「Location Intelligence」、異常な値を検出する「Anomaly Detection」、データ欠損などデータ品質の問題を解決する「Data Imputation」など。「セキュリティサービス」のカテゴリーに、ユーザー認証のための「User Account and Authorization」、アクセス制御のための「Access Control Service」など。「アプリサービス(App Services)」のカテゴリーに、モバイルアプリのための「Mobile Service」、アプリ間のワークフローを管理する「Workflow」、Webやモバイルアプリなどの画面レイアウトを制御する「Views」など。「DevOpsサービス」のカテゴリーに、自動化された継続的デリバリーを実現する「Continuous Delivery」など。「Edgeソフトウェアとサービス」のカテゴリーに、機器などからMQTTやHTTPなどの通信プロトコル経由でPredix Cloudに接続するための「Predix Machine SDK」、デバイス管理のための「Predix Machine Device Management」や、AT&T、Verison、Vodafoneなどのモバイル通信網による安全なネットワークサービス「Connectivity-as-a-Service」など。

使いやすさ

2016年の正式提供の前の現時点では使い勝手などは確定できないが、Predix Cloudの開発者用ポータル「Predix.io」で確認する限りでは、ベースとなっているPivotalのPaaSソフトウェア「Cloud Foundry」そのものの使い勝手であり、Cloud Foundryに慣れている開発者は違和感なく使えると思われる。現時点のPredix.ioにおいては、Cloud FoundryのcfコマンドラインツールなどもCloud Foundryサイトからダウンロードして、そのまま使うようになっている。したがって開発言語やアプリのデプロイ、実行などの方法もCloud Foundryと同様である

マニュアルや書籍など

2016年の正式提供の前の現時点では、ドキュメントは準備段階であり、プレビューレベルのものを英語のみで提供している。

拡張性

2016年の正式提供の前の現時点では明らかにされていないが、Predix CloudはGEが自社で利用するため、膨大なデータ量や接続デバイスに対応できる処理能力を考慮すると期待される。GEはPredix Cloudは時系列データ、大量のセンサーが生成するデータ、MRIが生成する大容量オブジェクトなどをリアルタイムに扱うように設計している、とのことである。

可用性

2016年の正式提供の前の現時点では明らかにされていないが、Predix CloudはGEが自社で利用するため、相応の障害対策やデータのバックアップを考慮すると期待される

SLA

2016年の正式提供の前の現時点ではSLAは明らかにされていない。

自動化機能

正式提供の前の現時点で、サービスのAPIドキュメントを公開しつつあり、APIによる自動化が可能になると思われる。

セキュリティ

現時点でセキュリティ関連の実装は明らかでないが、「ゲーテッドコミュニティ」(gated community:「門や塀で囲まれた居住地」の意)と呼ばれるモデルが採用され、Predix Cloudを利用できるのは、認定された企業だけに限定される。また、GEのグローバルなネットワークと60以上の規制領域にわたる深い知見を活用しながら、Predixクラウドは、グローバルの各国におけるデータ取扱上の権利は順守しながらもガバナンスを簡素化し、各ユーザーごとのコンプライアンス・コストを低減させるよう設計されているという。

データセンターの場所

データセンターの場所や数などは明らかにされていないが、 Harel Kodesh(VP and CTO of GE’s Software unit)の発言によれば、グローバルなネットワーク事業者としても有名なEquinixのデータセンターを利用するとのことである。なお、開発者ポータルPredix.ioのドキュメントではAWSのクラウドを使用するようになっている。

実績・シェアなど

GEは自社のソフトウェアのPredix Cloudへの移行をすすめており、自らがファーストユーザーとなる。Predixプラットフォームは、Boeing(ボーイング)社やColumbia Pipeline Group(コロンビア・パイプライン・グループ)、BPなどが既に利用している。また、Predix のクラウドサービスの正式提供前の初期導入企業として、ANSYS、Azuqua、Bsquare、Foghorn、FPT Software、GenPact、IGATE、Infosys、Nurego、Plataine、SparkBeyond、Tata Consultancy Services (TCS(、ThetaRayなどが紹介されている。

エコシステム

インダストリアル・インターネットの団体「Internet Industrial Consortium」をオーガナイズし、加盟企業は200を超えている。また開発者のためのポータルであるPredix.ioを通じてPredixを体験することができ、GEは来年には、Predixを利用する開発者が2万人にもおよぶと推定している

価格および支払い方法

従量課金とのことであるが、2016年の正式提供前の現時点で詳細は明らかにされていない